2020年4月28日火曜日

生物の勉強法(例)

生物の勉強の仕方の例
 『自分で』問題を解き、よく調べ、質問する。それしか成績を伸ばす方法はないと思いなさい(あなたは空のコップでもなければ、白紙の紙でもありません。学習とは、今持っている知識と、新たに加わった新しい知識が、一人ひとり違う文脈の中で再構成されることでなされるものです。重要なのは教材ではなく『あなた』であって、『あなた』が、知ったことを、何かにたとえたり、自分の他の知識と関連付けて、自分の言葉で表現する練習をすることが何より重要なのです)。
 教科書をさっと読んだら、まず、学校で配られた問題集を解いてみましょう。生物は、教科書の内容と問題集の内容に溝があります。たとえば、「転写」の定義を学んでも、次の問題は解けないでしょう。
問題 次のDNAを鋳型にして合成されるRNAの塩基配列を記せ。
TTAATT

答え:AAUUAA
大切なのは、解説を読んで、関連する分野を教科書・資料集・辞書で調べることです。また、当たり前ですが、定期的に復習を行うことも重要です。ナボコフが文学講義で言っているように、「人は書物を読むことはできない、ただ再読することができるだけ」なのです。もう一度読んで、はじめて文章を理解することができるのです。
★   生物の学習の一般的な流れの例を示します。あくまで例です。当たり前ですが『最も良い勉強法』など、『最も美しいもの』と同様この世に存在しません。そんなものがあったとしても、それは人それぞれです。
①網羅系問題集(学校で配られた問題集など)を2周以上。出てきた用語について資料集の索引で調べます。そうすることで定着率が上がります。
②共通テスト予想問題を最低3回分出てきたテーマについて資料集等で徹底的に調べる。
③過去問を5年分以上研究する出てきたテーマについて資料集等で徹底的に調べる。

Q&A 
 学習方法について
Q.学校が休校なんだけど、まず何から始めればいい?
A.まずは教科書を1読しましょう(丸暗記の必要はありません)。その後、学校で配られた問題集の、用語の穴埋めや、例題、基本問題から解きましょう。解説を読みながら、教科書や資料集にもどり、内容を確認しましょう。資料集のうしろには索引がありますから、たとえば問題文に「核」という用語が出てきたら、「核」について書かれているページをたくさん読みましょう(このように自分から能動的に調べていると、いつの間にか「核」という用語を覚えています)。
Q.学校が休校中で、自分がしっかり勉強できているか不安・・。
A.問題集の中の、「定義を確認するタイプの記述問題」を解いてみましょう。たとえば、「転写とは何か。30字以内で説明せよ。」などといった問題です。用語の定義があやふやなまま勉強をすすめていると、初めて見る問題に躓いてしまいます。また、生物学では図で現象を理解することが重要です。いろいろな図を見たり、自分で描いてみたり、ネットでCGの動画を検索してみたりしましょう。
Q.用語が覚えられない。
A.はじめにすべての用語を暗記してから問題に取り掛かるのではなく、問題を解いて解説を読み、いろいろな辞書で調べながら覚えていくとよいと思います。試行錯誤しかありません。語源から覚えられるものは語源から覚えましょう。
例)
翻訳・・・RNAの塩基配列情報をタンパク質のアミノ酸配列情報に「翻訳」している。
デオキシリボ核酸=「デオキシリボ」ースという糖が使われている「核酸」。
リボ核酸=「リボ」ースという糖が使われている「核酸」。
 休校期間の学習内容について(生物基礎)
Q.ゾウリムシのもつ収縮胞って何?…A.体に入ってきた水を排出する特殊な液胞(膜で包まれた構造)。ゾウリムシの周りの溶液が薄ければ薄いほど細胞内に水が入って来るので、1秒あたりに収縮する回数が増える。
Q.べん毛と繊毛って同じ?…A.違いは「1本長いのが生えてる=べん毛」か「たくさんの短いのが生えてる=繊毛」かで、真核生物のべん毛と繊毛は構造はほぼ同じ(原核生物のべん毛せん毛は真核生物のそれとは構造が異なる)。
Q.ミドリムシの眼点って眼?…A.(当然ミドリムシは単細胞なので)私たちの眼のようにたくさんの細胞からなる器官ではないが、光の受容に関与する(実際は、光受容体という部分[鞭毛の基部付近にある]が眼点とは別にある。眼点は遮蔽機能をもつ色素顆粒からなり、特定の方向からの光のみが光受容体に届くようにしている。覚えなくてよい)
Q.原生生物って原核生物と同じ?…A.違う。原生生物は真核生物の1グループ。原生生物のうち、捕食・移動をおこなうものを原生動物と呼んだりする。原生生物には核はあるが、原核生物には核はない(=DNAが核膜で包まれていない)。
Q.どうしてDNAではなくRNAに遺伝情報をもつ持つウイルスがいるの?…A.わかっていない。ウイルスは、超原始的な生物(生物が生まれる前の構造体)ではなく、生物が多くの形質を失ってできたものとする考えが主流。ウイルスは高校では生物に含めない(理由=DNAに遺伝情報を持たない者がいる・細胞構造を持たない・代謝を行わない)
Q.細胞って何?…A.定義ははっきりしない。高校では「細胞膜でつつまれた構造体」と覚えておけばよい。
Q.クロロフィルって何?…A.構造は覚えなくてよい。緑色。葉緑体の中にあり、Mg(マグネシウム)を含む複雑な有機物である。光エネルギーをキャッチする。
Q.植物の細胞と菌類の細胞と動物の細胞は何が違う?…A.植物の細胞は(光合成を行う部分には)葉緑体を持つ。さらに体を強固にするために細胞壁も持つ。菌類の細胞は葉緑体を持たないが(菌類は従属栄養生物)、細胞壁は持つ。動物の細胞は葉緑体も細胞壁も持たない(細胞壁を持たない細胞を蒸留水に入れると破裂する。赤血球のこのような破裂を特に溶血[ようけつ]という)。入試に出るのはこの辺だが、もちろん遺伝子等々全然違う。
Q.アデニンって何?…A.塩基の一種。弱い塩基性を持つ有機物だが、構造はテストに出ない。塩基には他にも、グアニン、シトシン、チミン(DNAのみ)、ウラシル(RNAのみ)がある。塩基名はすべて暗記する。
Q.アデノシンって何?…A.アデニンとリボースが結合したもの。
Q.リボースって何?…A.糖の一種。
Q.糖って何?…A.糖の定義は明確ではないのだが、糖の別名は「炭水化物」で、炭素(C)と水(H2O)がたくさんつながったものである。語尾が「-ス」なものが多い。
Q.酵素ってどこにあるの?…A.生きた細胞ならどの細胞にも存在する。細胞質基質にあるものもあるし、ミトコンドリアには呼吸に関する酵素、葉緑体には光合成に関する酵素が多種類存在する。
Q.酵素って永遠になくならないの?…A.実際は(教科書では伏せているが)何もしなくてもしばらく時間がたつと壊れる。覚えなくて良い。
Q.酵素って細胞内から出ない?…A.そんなことはない。必ず酵素は細胞内で「つくられる」が、消化酵素のアミラーゼやペプシンのように,「細胞外に分泌されてはたらく」酵素もある。
Q.どうして異化でエネルギーが放出され、同化では吸収されるの?…A.宇宙では、物質はバラバラになる方向に(乱雑さを増す方向に)変化しようとするという法則がある。よって、合成反応である同化は、外部からエネルギーを投入してやる必要がある。
Q.どうして光合成では一度ATPができるの?…A.わかっていない。少なくとも地球上では、光エネルギーを用いて直で(ATP合成を介さず)無機物から有機物を合成する代謝経路は見つかっていない。
Q.シアノバクテリアって葉緑体のこと?…A.ちがう。シアノバクテリアは「葉緑体の起源となった生物」であり、立派な生物である。細胞外で独立して増えることができない葉緑体は生物とは呼べず、細胞小器官に分類する。遺伝子についても、多くの遺伝子が核に奪われている。ミトコンドリアも同様に、生物とは呼べない。
Q.核はどうやってできたの?…A.核については、その構造が同質二重膜(同じ成分の膜が2重になっている)であることから、自分の細胞膜をくびれさせてつくったと考えられている。
Q.核とミトコンドリアはどちらが先にできた?…A.わかっていない。いずれにしろ、他の生物が細胞内に進入してきたことが、自分のDNAを核膜で守る原因になったと考えられている。
Q.デオキシリボースとリボースって同じ物?…A.違う。リボースから酸素がとれたものが「デ(無い)」「オキシ(酸素)」リボース。
Q.どうしてゲノムは精子や卵に入っている分を1セットと数えるの?そこに全種類の遺伝子があるという考え方に基づく。体細胞は2セットの遺伝子を持つ。例えば血液型においてA型の人は「AA」や「AO」などのように遺伝子を2つ持つ。
Q.セントラルドグマって何?核酸やタンパク質の合成に関し、遺伝情報の流れは一方的であるという基本原理。クリック(DNAの二重らせん構造の発見者)が提唱した。クリックは、宗教色の強い「ドグマ」(教義の意味)という語が科学用語として適切か?という問いについて、以下のように述べている。「この新しい仮定は単なる仮説というよりもっと強力でもっと重大だという意味を込めたかった。私は宗教上のあらゆる信念には厳密な意味での裏付けはないと考えているので、この言葉を、世間一般で使われている通りの意味ではなく、自分なりの考えで使ったのである。つまり、もっともらしいが、当時はまだ実験的に証明されていなかった重大な仮説、という意味である」

2020年4月27日月曜日

アベリーの実験およびハーシーとチェイスの実験の板書、高校verと大学ver

アベリーの実験 
高校ver


大学ver

誤字:DNA分解酵素と→DNA分解酵素を
すいません。

ハーシーとチェイスの実験
高校ver
大学ver

最後の実験②の、感染前のファージの絵にDNAを書き忘れています。すいません。

2020年4月21日火曜日

四コマ授業 生物基礎 DNA・遺伝子発現・セントラルドグマ






注意:用語の定義を簡略化して板書していることに注意してください。たとえば、翻訳は一般には「伝令RNA上の塩基配列を読み取ってその情報に対応するアミノ酸を選び出し、ペプチド鎖を形成していく過程」とされています。用語の定義を問う記述問題を解いている受験生は、よく解説を読み込むとともに、その問題の指定文字数や前問から、キーワードを推測して答える練習をしてください。

四コマ授業 生物基礎 光合成





四コマ授業 生物基礎 呼吸





2020年4月16日木曜日

休校中、モチベーションが下がった全国の高校生へ

休校中、モチベーションが下がった全国の高校生へ

なぜ生物基礎 1編、2編」を学ぶのか?
について簡単なメモをまとめました。
「なんでこんなの勉強しなきゃいけないの。興味ないわ」と思ったら、読んでみてください。

1編 生物の特徴


第1章 なぜ「生物の多様性と共通性」について学ぶのか?


我々はもちろん生物である。しかし、よく考えてみると、生物と生物でないものの区別は難しい。我々と同じようにDNAに遺伝子をもつウイルスは生物か?木でできた机は?コンピュータウイルスは?スマホも刺激に反応するが、我々のイオンの濃度差を使った神経シグナルによる反応とどう異なるのか?心臓や脳の無い生物は無数に存在する。心は生物か?シャーレで増える細胞は生物か?

生物の共通性とは何か?多様な部分はどこか?
今は、生物体を真似して機械を設計する時代である。人類は自然選択をも参考資料にしてしまうのだ。もしかしたら、生物の多様性の中に、未来のイノベーションに役立つアイディアがあるかもしれない。
生物学のカバーする範囲は、中学校で習った範囲よりもはるかに広大で、あいまいで、深いのだ。

アメーバやゾウリムシは単細胞生物である。「単細胞生物」を単純なものをあらわす悪口のように使う人がいるが、まったくおかしい。細胞レベルで見れば、我々のもつ多くの細胞よりはるかに複雑な構造体が、単細胞生物の細胞内部に見られる。

単細胞生物であるミドリムシは、葉緑体を持ちながら、(植物とは違い細胞壁をもたないので)ぐにゃぐにゃと光を求めて移動する。人体を構成する細胞には当然そんなことはできない。
ちなみに、細胞壁はセルロースという糖が主成分(食物繊維などともよばれる)で、このセルロースという糖は人には消化できない。したがって、細胞壁に守られた植物細胞内部の栄養素は、人には取り出しにくい。しかし、ミドリムシは細胞壁をもたないので、細胞内部の栄養素が取り出しやすいのだそうだ。ミドリムシラーメンが東大の近くで食えるが、うまい。
ミドリムシは未来の栄養源として注目されている。その構造を学んでおいて損はないだろう。

「生物学は自分には関係ない」などと思ってはいけない。何を隠そう、あなた自身が、生物物理学・分子生物学・生化学・細胞生物学・進化生物学・発生生物学・遺伝学・生理学・解剖学・病理学・薬理学・動物行動学・微生物学・分類学・人文社会科学・教育学・生態学・保全生物学・宇宙生物学に関する膨大な研究成果の唯一の根拠、『生物』なのだから。あなた自身のことについて、少し勉強してみようではないか。






第2章 なぜ「生命活動とエネルギー」について学ぶのか?


エネルギー保存の法則は、マクロな世界では、一般に成り立つ。実生活のレベルでは、エネルギーが無から湧いて出ることはない。

我々はエネルギーを利用して動く「動物」である。我々は、大雑把にいえば、食事の中に含まれる化学エネルギーを、呼吸(正確には「細胞呼吸」。化学反応の種類としての呼吸のこと。ガス交換としての呼吸、外呼吸のことではない)という複雑な化学反応で取り出しているのだ(我々は従属栄養生物である)。生物基礎で呼吸を学ばなかった学生は、自分がなんのために弁当を食べるのか、正確な理由を知らずにいるということになる。

一方、植物は弁当を食べない(植物は独立栄養生物だ)。なぜだろうか?鍵は光合成にある。

ファインマン(ノーベル物理学賞受賞者)は、幼少の頃、父に「どうしてぜんまいのおもちゃが動くのか」問われたそうだ。ファインマンは「ぜんまいで動いている」と答えた。この答えは正しいだろう。しかし、ファインマンの父の答えは違った。ぜんまいのおもちゃが動くのは「太陽」が出ているからだという。つまり、
植物が光合成により太陽から発せられる光エネルギーをATPの中の化学エネルギーに変え、
そのATPを使ってグルコースを合成し、
そのグルコースを食べた我々がグルコースの中から化学エネルギーを取り出しATPを合成し、
生じたATPの化学エネルギーを筋肉の細胞内で利用し、肉体の運動エネルギーに変え、
それによって我々はぜんまいを巻き、
そしてぜんまいのおもちゃは動くのである(エネルギーの変換には多くの熱エネルギーのロスが伴うことも忘れてはならない)。つまり、我々の生活とエネルギーは切っても切り離せない。
(ATPとは、全生命体が利用するエネルギーの通貨としてはたらく化学物質のこと。ここにも生命の共通性が見出される。ちなみに、細菌などの微生物の侵入に注意が必要な食品工場等の衛生管理において、細菌の検出には小型のATP検出装置が使われている。ATPあるところに生命ありなのだ

また、君の部屋には木でできた家具はないだろうか。大雑把に言えば、木の原材料は空気なのだ。空気中の二酸化炭素の炭素を利用して、植物は自身の体をつくりあげる。光合成は、我々の生活を支えているのだ。君の勉強机も、木でできているならば、それはかつて植物が光合成の基質として二酸化炭素を取り込み、糖(糖は別名「炭水化物」。植物は光合成によって二酸化「炭」素と「水」を用いて炭水化物を作り上げる)として組み立てた結果できたものなのだ。我々動物にはできない崇高な芸だ。

この単元を学ぶことで、地球上の生命が依存するほぼすべてのエネルギーの源は太陽であるということ、そして我々人類の活動は、植物(やシアノバクテリア)が行う光合成という複雑な化学反応に完全に依存しているということに気づくだろう。植物が光エネルギーを、グルコースというエネルギーの貯蔵物質に変換してくれないと、我々動物はエネルギーを得ることができないのだ。我々は植物が健気にためた貯蔵物質(グルコース)を強奪しながら生存しているのである。ベジタリアンだって過酷な食物網の中にいるのだ。

この単元を学んではじめて、「どうして植物を大切にしなければならないのか」という問いの答えのひとつを得ることになる。エネルギーと生物の関係を学ばないと、環境問題すら語ることができないのだ。




2編 遺伝子とそのはたらき

第1章 なぜ「生物と遺伝子」について学ぶのか?


現在、「遺伝子」という語はふつうに耳にする。では、遺伝子とは何か?この問いに答えられずしてどう遺伝子を語るのか?遺伝子操作とは、いったい何を「操作」するものなのか?現代を生きる上で、遺伝子に関する知識は必須である。もしかしたら、遺伝子を操作することで救える命があるかもしれない。もしくは、「あなたのお子さんの遺伝子についてですが・・・」と医者が話す時代が来る(一部はもう来ている)かもしれない。

人の遺伝子がおよそ2万個である、と言った時に、一体何を数えて2万個なのか?また、遺伝子組み組換え食品とは、何をどう組換えたものなのか?「遺伝子組換え食品って、なんとなく怖い!」と言う意見は科学的ではない。遺伝子を知らずにいては、怖いかどうかの判断すらできないはずである。

DNA(デオキシリボ核酸、つまりデオキシリボースという糖が含まれた核酸)を知っているだろう。しかし、DNAがどんな形をしているかを知っているだろうか?どうして生物学者はDNAを「鎖」に例えるのだろう?実はDNAは、ヌクレオチドとよばれるものが長くつながったものなのである。

昔、ほとんどの生物学者はDNAに遺伝子があるとは信じなかった。構造が単純極まりない(と判断していた)からだ。しかし実際は違った。その単純な構造の中に、膨大な「暗号」が秘められていたのだ。人類は、自然が進化の過程でつくりあげたその暗号体系、塩基配列を読みこなせるようになった(「遺伝暗号表」を完成させた)。アインシュタインは科学の営みをコナン・ドイルの探偵小説に例えた。まさに生物学者は自然を暴いているのだ。

塩基配列1つの違いで、お酒に強いかどうかだけでなく、疾患の可能性、薬剤の効果まで決定される時代が近づいている。オーダーメイド医療が当たり前になる前に、DNAと遺伝子の基礎知識までを学んでおこうではないか。



第2章 なぜ「遺伝情報の分配」を学ぶのか?


1950年代はじめ、ある研究者は、悪性腫瘍(悪性新生物)から細胞を得た。その細胞、即ち「がん細胞」は、採取した患者の頭文字をとってヒーラ(HeLa)細胞と名付けられた。この不死化した細胞は、世界中の研究室の間でやりとりされ、がん細胞の研究に用いられている。がん細胞は、体細胞分裂の制御が破綻した細胞である。我々が後世へ命をつなぐときも、がん細胞が増殖するときも、細胞分裂がカギを握っている。

「おなじものを2つつくろう。自らを増殖させよう」という営みが、生命の根本である。リチャード・ドーキンスという学者は、数十億年の間に、自分を複製するものが生じ、はびこることは決して想像しがたいことではない、(しかもそれが生じるのはたった1回でよい)と指摘している。自己複製を行うシステムが複雑化したものが生命なのかもしれない。

「え~私まだ子供つくらないし」などと思うだろうか。しかし、毎日、あなたの体からは、(時には垢として)無数の細胞が剥がれ落ちている。赤血球も毎日恐ろしい数が破壊されている。それらの細胞はどこから供給され、そしてどのようにつくられるのだろうか?皮膚の細胞が間違えて神経細胞になってしまったら、体の構造はめちゃくちゃだ。驚くほど正確に、迅速に、慎重に、細胞は数を増やさなければならない。

(基礎なし生物では、アポトーシスという、細胞の自殺を学ぶ[我々の指は、指の間の細胞、河童の手のみずかきの部分にあたる細胞がアポトーシスで死滅することでできた]。また、生物基礎でも、のちに、ウイルス感染細胞を殺すキラーT細胞という細胞を学ぶ。「全体を生かすために、個を殺す、自らを生かすために自らを殺す」というのは、多細胞生物の不思議な哲学である)

また、不思議なことに、細胞は、原則、自身の持つ遺伝情報をすべて保持したまま体細胞分裂するのである(DNAを2倍に増やしてから、分裂にあわせてDNAを均等に分配する)。

この事実は、ガードン博士がカエルで証明した。そして、その研究成果は、深くiPS細胞の開発に関わっている(ガードン博士と山中教授は同時にノーベル賞を受賞した)。

もし、体細胞分裂の研究の延長上に「自分の細胞を分裂させ、自分の臓器を、もうひとつつくる未来」があるのなら、人類が体細胞分裂について深く学ぶ理由にならないだろうか。体細胞分裂は、人類を救う未来の医療の重大な鍵にもなれば、冒頭で述べたように、人類の永遠の敵にもなり得るのである。

(基礎なしの生物では、減数分裂という、体細胞分裂とは異なる、非常に特殊な細胞分裂を学ぶことになる。驚くべきことに、我々は、卵や精子を作る際、自然条件下でも、遺伝子を組換えているのだ)





第3章 なぜ「遺伝情報とタンパク質の合成」について学ぶのか?


1988年、米国国立衛生研究所がヒトゲノム計画を公式に発表し、その計画を統率するためにワトソン(DNAの二重らせん構造の発見者のひとり)をトップに招いた。2003年、ヒトのDNA全体の塩基配列が解読された。ゲノムとは、例えて言うなら、その生物のタンパク質の設計図(遺伝子)を寄せ集めたある種の図鑑である。

(ヒトゲノム計画などと聞くと少し怖い印象があるが、単純な計画である。人のDNAの塩基配列をすべて読み取ろうとする計画である。ちなみに、多くの人々は、ヒトゲノム計画の完了が生物学の終焉だと予測した。塩基配列が読めてしまえば、もう生物学に未知なことなどなくなるという、今になってみれば馬鹿げた考えであった。大学内容だが、塩基配列以外にも重大な遺伝子発現に関するしくみが近年次々と発見されており、ヒトゲノム計画の完了は、生物学の終わりではなく、はじまりだった)

生命体の主成分はタンパク質である。我々の細胞に、たとえばニンジンのタンパク質を混入させただけで、多くの場合その細胞は死に至る。生命活動とは、タンパク質の活動といってもよい(そのタンパク質の設計図が遺伝子である)。ウイルスから体を守る最強の軍団もタンパク質(免疫グロブリンなど)、体中に呼吸のための酸素を運ぶ献身的な運送屋もタンパク質(ヘモグロビン)、光を扱う目の光学技士もタンパク質(クリスタリン)、化学反応を上手に制御する魔法使いもタンパク質(触媒として働く各種酵素など。酵素の中には、1億年に1回しか起こらない化学反応を1秒に1回起こすように変えてしまうものもある)である。あなたの命を救う薬もタンパク質かもしれない。

どのような厳密な作業があれば、このような多様なタンパク質を、限られた、アミノ酸という材料からつくることができるのだろうか?知っておかねばなるまい。ちなみに、ニュースで「抗体」という語をよく聞くと思うが、この抗体も実体は(前述した)免疫グロブリンというタンパク質である。

2020年4月、全世界の天才的生物学者が、新型コロナウイルスに結合し、感染能力を無力化するような抗体を探している(のちに学ぶが、抗体は、その形によって、攻撃できる敵が異なる。新型のウイルスに対抗するには、そのウイルスに適した抗体が必要なのである)。この世界を救うのは、タンパク質かもしれない。

あなたが食べるステーキも主成分はタンパク質である。グルメ番組が大好きなコラーゲンもタンパク質である。タンパク質学を少し学ぶと、栄養に関する観念が変わると思う。

「おいしそうなステーキ!いただきまーす!」と「コラーゲンたっぷり!お肌の健康によさそう!いただきまーす!」はまったく印象が異なるセリフだが、どちらもタンパク質を摂取していることに違いはない。

さて、目には見えない、精巧なタンパク質工場の世界をもっと学んでみようではないか。それは『あなたがどうつくられるか』という問題に深く関わっている。我々、生物は、生まれてから一度も『完成』などしたことはない。常に壊れ続け、常につくられ続けているのだ。生命体は、一言でいえば、増えるタンパク質工場なのだ。

タンパク質の設計図であるDNAは、真核生物では、核という金庫で守られている。放射線という言葉を聞いたことがあるだろう。どうして放射線が危険か説明できるだろうか?放射線は、DNAの一部を破壊し得る、つまり、タンパク質の設計図を書き換え得るのである。「DNAの情報がどのようにタンパク質へと流れていくか」を説明できなければ(二重らせん構造の発見者、クリックが提唱した、セントラルドグマについて説明できなければ)、放射線の危険性について何も説明できないことになる。「生物基礎入試に使わないよー」なんて思っている物理に興味がある理系志望の諸君も、しっかり生物基礎を学んでほしい。物理系の教授が生物学の畑にさっと入ってすぐに論文を書いてしまう・・なんてことも現在はよくあることだ。もはや生物学物理学化学などと分けるのは時代遅れなのである。

「どうして生物の教科書に化学式が載ってるんですか!これじゃ化学じゃないですか!化学が苦手だから生物系に進学するのに!」なんて言わないでほしい。君のからだは化学物質以外の何でできているというのだ。また、シュレーディンガーに言わせれば、「生物体の働きには正確な物理法則が要る」。






1編、2編は、大きく言えば、分子細胞生物学の基本を学ぼうとする単元である。生命を現象という面からとらえ、さらに、桜と犬と乳酸菌とあなたに共通する反応を、鋭く見抜いていこうという取り組みである。そして、その道は、間違いなく未来の医療、人類の持続的な発展につながっている。健康に気を付けながら、しっかり学んでほしい。