生物の勉強の仕方の例
★ 『自分で』問題を解き、よく調べ、質問する。それしか成績を伸ばす方法はないと思いなさい(あなたは空のコップでもなければ、白紙の紙でもありません。学習とは、今持っている知識と、新たに加わった新しい知識が、一人ひとり違う文脈の中で再構成されることでなされるものです。重要なのは教材ではなく『あなた』であって、『あなた』が、知ったことを、何かにたとえたり、自分の他の知識と関連付けて、自分の言葉で表現する練習をすることが何より重要なのです)。
★ 教科書をさっと読んだら、まず、学校で配られた問題集を解いてみましょう。生物は、教科書の内容と問題集の内容に溝があります。たとえば、「転写」の定義を学んでも、次の問題は解けないでしょう。
問題 次のDNAを鋳型にして合成されるRNAの塩基配列を記せ。
TTAATT
答え:AAUUAA
大切なのは、解説を読んで、関連する分野を教科書・資料集・辞書で調べることです。また、当たり前ですが、定期的に復習を行うことも重要です。ナボコフが文学講義で言っているように、「人は書物を読むことはできない、ただ再読することができるだけ」なのです。もう一度読んで、はじめて文章を理解することができるのです。
★ 生物の学習の一般的な流れの例を示します。あくまで例です。当たり前ですが『最も良い勉強法』など、『最も美しいもの』と同様この世に存在しません。そんなものがあったとしても、それは人それぞれです。
①網羅系問題集(学校で配られた問題集など)を2周以上。出てきた用語について資料集の索引で調べます。そうすることで定着率が上がります。
②共通テスト予想問題を最低3回分→出てきたテーマについて資料集等で徹底的に調べる。
③過去問を5年分以上研究する→出てきたテーマについて資料集等で徹底的に調べる。
Q&A
● 学習方法について
Q.学校が休校なんだけど、まず何から始めればいい?
A.まずは教科書を1読しましょう(丸暗記の必要はありません)。その後、学校で配られた問題集の、用語の穴埋めや、例題、基本問題から解きましょう。解説を読みながら、教科書や資料集にもどり、内容を確認しましょう。資料集のうしろには索引がありますから、たとえば問題文に「核」という用語が出てきたら、「核」について書かれているページをたくさん読みましょう(このように自分から能動的に調べていると、いつの間にか「核」という用語を覚えています)。
Q.学校が休校中で、自分がしっかり勉強できているか不安・・。
A.問題集の中の、「定義を確認するタイプの記述問題」を解いてみましょう。たとえば、「転写とは何か。30字以内で説明せよ。」などといった問題です。用語の定義があやふやなまま勉強をすすめていると、初めて見る問題に躓いてしまいます。また、生物学では図で現象を理解することが重要です。いろいろな図を見たり、自分で描いてみたり、ネットでCGの動画を検索してみたりしましょう。
Q.用語が覚えられない。
A.はじめにすべての用語を暗記してから問題に取り掛かるのではなく、問題を解いて解説を読み、いろいろな辞書で調べながら覚えていくとよいと思います。試行錯誤しかありません。語源から覚えられるものは語源から覚えましょう。
例)
翻訳・・・RNAの塩基配列情報をタンパク質のアミノ酸配列情報に「翻訳」している。
デオキシリボ核酸=「デオキシリボ」ースという糖が使われている「核酸」。
リボ核酸=「リボ」ースという糖が使われている「核酸」。
● 休校期間の学習内容について(生物基礎)
Q.ゾウリムシのもつ収縮胞って何?…A.体に入ってきた水を排出する特殊な液胞(膜で包まれた構造)。ゾウリムシの周りの溶液が薄ければ薄いほど細胞内に水が入って来るので、1秒あたりに収縮する回数が増える。
Q.べん毛と繊毛って同じ?…A.違いは「1本長いのが生えてる=べん毛」か「たくさんの短いのが生えてる=繊毛」かで、真核生物のべん毛と繊毛は構造はほぼ同じ(原核生物のべん毛せん毛は真核生物のそれとは構造が異なる)。
Q.ミドリムシの眼点って眼?…A.(当然ミドリムシは単細胞なので)私たちの眼のようにたくさんの細胞からなる器官ではないが、光の受容に関与する(実際は、光受容体という部分[鞭毛の基部付近にある]が眼点とは別にある。眼点は遮蔽機能をもつ色素顆粒からなり、特定の方向からの光のみが光受容体に届くようにしている。覚えなくてよい)
Q.原生生物って原核生物と同じ?…A.違う。原生生物は真核生物の1グループ。原生生物のうち、捕食・移動をおこなうものを原生動物と呼んだりする。原生生物には核はあるが、原核生物には核はない(=DNAが核膜で包まれていない)。
Q.どうしてDNAではなくRNAに遺伝情報をもつ持つウイルスがいるの?…A.わかっていない。ウイルスは、超原始的な生物(生物が生まれる前の構造体)ではなく、生物が多くの形質を失ってできたものとする考えが主流。ウイルスは高校では生物に含めない(理由=DNAに遺伝情報を持たない者がいる・細胞構造を持たない・代謝を行わない)
Q.細胞って何?…A.定義ははっきりしない。高校では「細胞膜でつつまれた構造体」と覚えておけばよい。
Q.クロロフィルって何?…A.構造は覚えなくてよい。緑色。葉緑体の中にあり、Mg(マグネシウム)を含む複雑な有機物である。光エネルギーをキャッチする。
Q.植物の細胞と菌類の細胞と動物の細胞は何が違う?…A.植物の細胞は(光合成を行う部分には)葉緑体を持つ。さらに体を強固にするために細胞壁も持つ。菌類の細胞は葉緑体を持たないが(菌類は従属栄養生物)、細胞壁は持つ。動物の細胞は葉緑体も細胞壁も持たない(細胞壁を持たない細胞を蒸留水に入れると破裂する。赤血球のこのような破裂を特に溶血[ようけつ]という)。入試に出るのはこの辺だが、もちろん遺伝子等々全然違う。
Q.アデニンって何?…A.塩基の一種。弱い塩基性を持つ有機物だが、構造はテストに出ない。塩基には他にも、グアニン、シトシン、チミン(DNAのみ)、ウラシル(RNAのみ)がある。塩基名はすべて暗記する。
Q.アデノシンって何?…A.アデニンとリボースが結合したもの。
Q.リボースって何?…A.糖の一種。
Q.糖って何?…A.糖の定義は明確ではないのだが、糖の別名は「炭水化物」で、炭素(C)と水(H2O)がたくさんつながったものである。語尾が「-ス」なものが多い。
Q.酵素ってどこにあるの?…A.生きた細胞ならどの細胞にも存在する。細胞質基質にあるものもあるし、ミトコンドリアには呼吸に関する酵素、葉緑体には光合成に関する酵素が多種類存在する。
Q.酵素って永遠になくならないの?…A.実際は(教科書では伏せているが)何もしなくてもしばらく時間がたつと壊れる。覚えなくて良い。
Q.酵素って細胞内から出ない?…A.そんなことはない。必ず酵素は細胞内で「つくられる」が、消化酵素のアミラーゼやペプシンのように,「細胞外に分泌されてはたらく」酵素もある。
Q.どうして異化でエネルギーが放出され、同化では吸収されるの?…A.宇宙では、物質はバラバラになる方向に(乱雑さを増す方向に)変化しようとするという法則がある。よって、合成反応である同化は、外部からエネルギーを投入してやる必要がある。
Q.どうして光合成では一度ATPができるの?…A.わかっていない。少なくとも地球上では、光エネルギーを用いて直で(ATP合成を介さず)無機物から有機物を合成する代謝経路は見つかっていない。
Q.シアノバクテリアって葉緑体のこと?…A.ちがう。シアノバクテリアは「葉緑体の起源となった生物」であり、立派な生物である。細胞外で独立して増えることができない葉緑体は生物とは呼べず、細胞小器官に分類する。遺伝子についても、多くの遺伝子が核に奪われている。ミトコンドリアも同様に、生物とは呼べない。
Q.核はどうやってできたの?…A.核については、その構造が同質二重膜(同じ成分の膜が2重になっている)であることから、自分の細胞膜をくびれさせてつくったと考えられている。
Q.核とミトコンドリアはどちらが先にできた?…A.わかっていない。いずれにしろ、他の生物が細胞内に進入してきたことが、自分のDNAを核膜で守る原因になったと考えられている。
Q.デオキシリボースとリボースって同じ物?…A.違う。リボースから酸素がとれたものが「デ(無い)」「オキシ(酸素)」リボース。
Q.どうしてゲノムは精子や卵に入っている分を1セットと数えるの?…そこに全種類の遺伝子があるという考え方に基づく。体細胞は2セットの遺伝子を持つ。例えば血液型においてA型の人は「AとA」や「AとO」などのように遺伝子を2つ持つ。
Q.セントラルドグマって何?…核酸やタンパク質の合成に関し、遺伝情報の流れは一方的であるという基本原理。クリック(DNAの二重らせん構造の発見者)が提唱した。クリックは、宗教色の強い「ドグマ」(教義の意味)という語が科学用語として適切か?という問いについて、以下のように述べている。「この新しい仮定は単なる仮説というよりもっと強力でもっと重大だという意味を込めたかった。私は宗教上のあらゆる信念には厳密な意味での裏付けはないと考えているので、この言葉を、世間一般で使われている通りの意味ではなく、自分なりの考えで使ったのである。つまり、もっともらしいが、当時はまだ実験的に証明されていなかった重大な仮説、という意味である」