テーマ:自然免疫
Tは教壇でサンドイッチを取り出し、かじった。
T「うえ!なんてことだ!カビている!」
学生は笑い、警告する。
「生ものはすぐカビてしまいますよ。気をつけないと」
T「君は生ものなのにカビないね」
T「私たちには、体内の異物を排除する仕組みがそなわっていることは、子供でも知っている。しかしそれは簡単そうに見えて、非常に高度な芸だ。また、どうして一度かかった病気には二度とかから無いのか?」
「先生、しかし、わたしは何度もインフルエンザにかかっています」
T「良いことに気がついたね。病原体も、ただ黙っているわけではないのだ。古き良き物が流行に流され姿形を変えるように、ウイルスの形状も、世代と共に突然変異によって変化を続けているのだ」
T「さて、高度で美しいしくみはとっておくことにして、まずは多くの生物が行っている原始的な体を守るしくみについて見てみたい」
T「まず、何より大切な防御機構は、表皮の角質層だ。角質層は死んだ細胞であり、感染に対する第一防衛線である。ウイルスは死んだ細胞に感染できないからね」
T「外傷や火傷の死因は、実は表皮が破壊されてしまったことによる感染によるものがほとんどなんだ」
T「外傷や火傷の死因は、実は表皮が破壊されてしまったことによる感染によるものがほとんどなんだ」
T「また、呼吸器系の粘膜は、細胞が持つ毛(繊毛)の動きで粘液に流れを起こし、病原菌を体外へ追い出している。粘液分泌に障害のある患者は、呼吸器感染を引き起こす場合が非常に多い」
T「女性の涙は武器と言うが、」
「ちょっと待ってください。その発言は差別ではないですか?」
T「申し訳ない。撤回するよ。しかしね、私に言わせれば、男性の涙も武器なのだ。もっと言えば、ヨダレも武器なのだ」
T「さらに、食細胞(好中球やマクロファージ、樹状細胞など『食作用』をもつ細胞)などが異物を処理してくれる」
T「また、NK細胞という細胞は、病原体だけでなく、ウイルスに感染した細胞や、悪性腫瘍細胞(つまり、癌だ)を殺す役割も持っている」
「なんだか、殺すだとか、キラーだとか、物騒な言葉ばかりでてきますね」
T「うむ。免疫系の誤作動は深刻だ。例えば、Ⅰ型糖尿病は、自身のすい臓を病原体と勘違いして、自分で攻撃することが原因であるといわれている。このような疾患を『自己免疫疾患』と言う」
T「甲状腺が肥大化し、心拍が急増、眼が突出するバセドー病も、一種の自己免疫疾患だと考えられている(甲状腺はもともと代謝を促進させる組織だが、働かなくても、働き過ぎても害が出る。バセドー病の場合は、甲状腺が攻撃を受け刺激され、働き過ぎてしまう)。しかしまだまだ不明なことが多い」
T「甲状腺が肥大化し、心拍が急増、眼が突出するバセドー病も、一種の自己免疫疾患だと考えられている(甲状腺はもともと代謝を促進させる組織だが、働かなくても、働き過ぎても害が出る。バセドー病の場合は、甲状腺が攻撃を受け刺激され、働き過ぎてしまう)。しかしまだまだ不明なことが多い」
T「話がそれてしまった。自己免疫疾患は、自然免疫というより、獲得免疫が色濃く関係するとされているのだ」
「獲得免疫とは?」
T「良い学習意欲だが、時間切れだよ。今日はここまでだ」
*学生による自習ノート
●参考資料
免疫
1.血液防御
(1)血液凝固:出血時にフィブリンが作られて血液が固まる現象。
(2)免疫:体内に異物が侵入したとき、それを排除する働き。
2.物理的・化学的防御:生体が外界と接する皮膚や粘膜で異物の侵入を防ぐしくみ。
① 物理的防御 角質層をもつ皮膚による保護,気管の繊毛上皮の運動やくしゃみ・せきによる異物の除去など。
② 化学的防御 汗・涙・粘液・だ液中に含まれるリゾチーム(細菌の細胞壁を分解)などの酵素や強酸性の胃液による殺菌,腸内細菌による他の細菌の増殖抑制など。
3.自然免疫:白血球の一種である好中球やマクロファージなどの食作用によって,異物が取りこまれ,分解される。自然免疫は速やかに行われる。
3.炎症
毛細血管で炎症が起きると、マクロファージや好中球が病原体を食作用で処理しやすくなる(毛細血管が広がり、マクロファージや好中球が通りやすくなる→血管から出たマクロファージや好中球は、感染部位の病原体を食作用で処理する)。
3.炎症
毛細血管で炎症が起きると、マクロファージや好中球が病原体を食作用で処理しやすくなる(毛細血管が広がり、マクロファージや好中球が通りやすくなる→血管から出たマクロファージや好中球は、感染部位の病原体を食作用で処理する)。
*学生による議論
A「白血球も赤血球と同じように、血管を通るのかな」
B「そうらしいね」
C「リンパ管という管も通るらしい」
A「リンパ管だって?聞いたことないな」
D「リンパ管・・・辞書には、『脊椎動物においてリンパを流通させる管。最後は血管の静脈に合流する。』とある。おや?リンパ管には静脈と同じように弁があるらしい。液体が逆流しないようになっている」
C「資料集の絵がわかりやすいよ。リンパ管はまるで血管のようだが、流れる液体はリンパ液というんだ。リンパ管は血管からしみ出た組織液を回収する経路でもあるようだ」
B「白血球は、リンパ管、そして血管を通じて感染箇所まで移動し、働んだね」
A「図書館で借りてきた免疫学の教科書によれば『活性化したリンパ球は、リンパ管を通ってリンパ節から出ていく。最終的には血中に入り、血流に乗ったリンパ球は実際に働く組織へと向かう』らしい」
B「リンパ節って?」
C「リンパ管の途中にあるふくらみだね。マクロファージなどの食作用の場・および抗原提示の場ともある」
A「抗原提示とは何だろう?来週の講義で学ぶ獲得免疫が関係していそうだけど・・・」
B「少し予習してみよう」
D「うーん、抗原提示とは、『樹状細胞などの抗原提示細胞が、食作用で食べた抗原の一部を、T細胞に提示すること』でいいんじゃないかな」
C「なるほど。『抗原の情報を記憶するのが獲得免疫』とあるから、抗原の情報を『他の細胞に伝える』ことが重要になってくるんだ」