2017年1月30日月曜日

反転授業用「生物基礎・第2章(遺伝子とその働き)で必ず問われる問題」

①DNAの構造が問われる(二重らせん構造)。発見者(ワトソンとクリック)も必ず問われる。

②DNAは何という単位がつながったものか問われる(ヌクレオチド)。




③DNAの正式名称が問われる(デオキシリボ核酸)。

④DNAからRNAを合成することを何というか問われる(転写)。

⑤mRNAからタンパク質を合成することを何というか問われる(翻訳)。

⑥DNA→RNA→タンパク質へと一方向的に情報が流れることを何というか問われる(セントラルドグマ)。

⑦転写において、DNAのA(アデニン)に結合するRNAの塩基はU(ウラシル)であることが問われる。

⑧塩基の正式名称が問われる(A:アデニン、T:チミン、G:グアニン、C:シトシン、U:ウラシル)

⑨DNAの糖はデオキシリボースだが、RNAの糖は何であるか問われる(リボース)。

⑩グリフィスとアベリー(エイブリーともいう)の実験で、R型菌がS型菌に変化する現象を何というか問われる(形質転換)。

⑪形質転換を起こす物質は何かが問われる(DNA)。また、少し難しい問題として、S型菌の抽出物をタンパク質分解酵素で処理しても形質転換が起きる理由が問われる(DNAは分解されず残っているから・・・形質転換を起こす物質はタンパク質ではなくDNAであることが示された)。

⑫T2ファージを用いた実験(DNAが遺伝子の本体であることが示された)の実験者が問われる(ハーシーとチェイス)。

⑬ハーシーとチェイスの実験で、ファージのDNAが最終的にどこに発見されたかが問われる(試験管の底に落ちた大腸菌の内部)

⑭二重らせん構造をとったDNA中において、AとT、CとGは必ず同じ数含まれる(この規則をシャルガフの規則という)ことが問われる。
例題:ある2本鎖DNA中に、Aが30%含まれていた。Cは何%含まれるか(20%・・・Aが30%含まれているということは、Tも30%含まれ、残りは40%。その中にCとGが均等に含まれるから、CとGの割合は20%ずつ)

反転授業用「生物基礎・第1章(生物の特徴)で必ず問われる問題」

①細胞のイラストがあり、細胞小器官の名称を問われる。さらに、その細胞小器官の働きを選択肢で選ばせられる。
ミトコンドリア:呼吸(共生説と関連付けて、「好気性細菌」が真核生物の祖先の細胞に共生して生じたということも問われる)
*実は、呼吸のうち、1/3の反応はミトコンドリアではなく細胞質基質で行われる。したがって「呼吸はどこで行われる?」という問いは複雑になってしまいよくない。必ず「(ミトコンドリアのイラストを指し)この細胞小器官で行われる反応は?」「呼吸反応の『中心』になる細胞小器官は?」「酸素を消費する細胞小器官は?」などと聞かれる。

葉緑体:光合成(共生説と関連付けて、「シアノバクテリア」が真核生物の祖先の細胞に共生して生じたということも問われる)
液胞:細胞内部の塩分濃度調節(浸透圧調節ともいう)、老廃物の貯蔵、アントシアン含む(アントシアンを含むと書いておけば答えは液胞しかあり得ないので、よく教師は液胞のヒントにアントシアンを使う)
細胞壁:細胞を機械的に支える。植物細胞と原核細胞がもつ。植物の細胞壁はセルロースが主成分。植物細胞の細胞壁の最大のヒントはセルロース。
細胞膜:細胞を包む(よく勉強している教師は「細胞内部を外界と仕切る、物質の輸送にかかわる」と書く)。全細胞が持つ。
核:染色体(DNA+タンパク質)を含む。ふつう細胞に1個。ミトコンドリアや葉緑体にもDNAがあるため、「DNAを含む」だけでは核を選べない。「多くの遺伝子を持つ」とか、「細胞内に1つ」とか、他のヒントも出さざるを得ない。





②ATPの正式名称を問われる(アデノシン三リン酸)

③ATPの形とそれぞれの部位の名称を問われる(アデニン-リボース-リン酸-リン酸-リン酸)





④ATPの、リン酸とリン酸の間の結合の名称を問われる(高エネルギーリン酸結合)

⑤異化と同化をイラストで問われる(異化と同化はかなり定義があやふやなため、例というよりは模式図で問われる。例としては、異化は呼吸、同化は光合成、タンパク質合成だけでOK)。そのイラストにはATPやADPも入ってくる。




⑥すべての生物が何という基本単位でできているか問われる(細胞。追加質問で、その説を何というか問われる。答えは細胞説)。

⑦人物名を執拗に問う教師もいる。
細胞の発見者は?「フック」
微生物を観察したり、動物の精子を最初に論文に記載したりした人は?「レーウェンフック」

核の発見者は?「ブラウン」
植物の体が細胞でできていると言ったのは?「シュライデン」
動物の体が細胞でできていると言ったのは?「シュワン」
細胞は細胞から生じると言ったのは?「フィルヒョー」





2017年1月26日木曜日

反転授業用「生物基礎・転写と翻訳(セントラルドグマ)」

テーマ:セントラルドグマ

「個々の体細胞の核は、みな同じ染色体を持っており、したがって同じセットの遺伝子を持っている。20世紀初期の生物学者達は、すべての細胞の核で遺伝子が同じであるならば、いったいどのようにして受精卵からの発生を制御することができるのだろうかという問題に直面した。仮に、からだのすべての細胞が同じヘモグロビンやインスリンなどの遺伝子をもっているならば、なぜヘモグロビンタンパク質は赤血球だけで、また、インスリンは特定のすい臓細胞だけで合成されるのだろうか?この問題は未だ完全には解決していないが、細胞によって異なる遺伝子が発現していることは間違いない。生物学者達は遺伝子発現の調節機構について研究を進めている」



T「生命現象で最も重要なポイントを一言であらわしてみたまえ。君」

「最も重要な生命現象は・・・食べることです!」

T「ほう!よろしい。ひとつの答えだ。では、君はどうして食べるのかね?」

「おいしいから?」

T「たとえば、ステーキを食べた時、牛のタンパク質は消化酵素によりアミノ酸にまで分解される。そのアミノ酸はすべて捨ててしまうのだろうか?」

T「違う意見がある人はいない?黒いジャケットの君はどう思う?生命現象の中心は何か?」

「セックスですか」

教室が急に黄色い声でざわめく。

T「こら、笑ってはいけない。しかし我々は、性を持たず、セックスをしない生き物を知っている」

「最も重要な生命現象は成長ではないですか?私たちが講義を受けるのも成長したいからです」

T「人の成長には精神的な成長と肉体的な成長があるね」


T「今出た答えはどれも正しい。しかし私は、今から説明するセントラルドグマのしくみも、考えに入れてもよいのではないか思う

T「セントラルドグマとは、『遺伝情報の伝達は核酸から核酸へ、あるいは核酸からタンパク質へと行われる』という仮説だ」



T「DNAのうち、遺伝子に当たる領域を『転写』し(DNAは『写し』をとらなければ使えない。DNAのうち、写し取られる領域、つまり使う領域を遺伝子といい、人では、遺伝子領域は2万箇所ある。それでもDNAの全領域のうち1.5%しか遺伝子領域がない。のこりの98.5%の領域は何のためにあるのか?これは生物学者が現在最も注目している謎の一つだ)、DNAの『写し』をつくる。この写しを『mRNA』という」






少し難しく描くとこんな感じだ





T「mRNAは核の外でリボソームというタンパク質合成装置に読み込まれ、リボソームはmRNAに書かれた指示(mRNAの3つの塩基がアミノ酸1つを指定する。アミノ酸を指定するmRNAの3つの塩基をコドンという)通りのタンパク質の合成反応を触媒する。この作業を『翻訳』という」



T「私たちの体にあるほぼすべての細胞は(数も量も塩基配列も)同じDNAを持つが、発現している(DNAの遺伝子領域で転写が起きている、つまりスイッチがONに入っていることを、遺伝子が『発現している』という)遺伝子は細胞毎に異なることが知られている」






T「DNAはタンパク質の設計図で有り、タンパク質こそ我々の肉体だ(我々の体はほとんど水とタンパク質でできている)」

T「DNAを複製し子に伝え、その子のDNAの情報通りに、外から取り入れた栄養を使って成長し、再びDNAを子孫に受け渡していく。これが生命現象の本質であると私は思う」









「ちょっと待ってください。DNAの写しを取るとは?細胞内にコピー機があるのですか?」

T「同じような装置がある。RNAポリメラーゼといって、DNAをほぐしながら、片方の鎖(どちらの鎖かは遺伝子によって変わる)をRNAに写していくのだ」

「タンパク質が完成したところで図が終わっていますが、タンパク質と我々とどう関係しているのですか?タンパク質とはそんなに重要なものですか?」

T「タンパク質は君の主成分であり、アミノ酸が長くつながったものだ。信じられないかも知れないが、君もキノコも大腸菌も成分はそう変わらない。水を除けば、あとのほとんどはタンパク質なんだ」

「そんな馬鹿な!」

T「いやいや、本当だ。アミノ酸がつながった、と言っても、タンパク質に使われるアミノ酸は20種類有り、その並び方次第で性質が大きく異なったタンパク質ができる。筋肉をつくるアクチン、毛髪をつくる硬いケラチン、眼の水晶体になる透明なクリスタリン、赤血球の中にあるヘモグロビンは、機能も見た目も様々だが、すべてタンパク質だ。語尾が「~in」で終わっているものはすべてタンパク質だ。インスリンなどもそうだね」

T「RNAポリメラーゼやカタラーゼなどの酵素の主成分もタンパク質だ」






T「しかも、ほとんどの生物で使っているアミノ酸が共通(20種)しているから、他の生物のタンパク質を食べて分解すれば、生じたアミノ酸を自分のタンパク質を作る材料として使える」

T「もう一度セントラルドグマの話に戻ろう。DNAからRNAをつくることを『転写』という。mRNAの情報をタンパク質のアミノ酸配列の情報に読み替えてタンパク質を合成する(この作業はリボソームが行う)ことを『翻訳』という」

「複製というのは何ですか」

T「複製は、DNAからDNAをつくることだ」

T「DNA量を2倍に増やし、そのあと細胞を2つにわけることで、1つの細胞は2つに増えることができる。これを体細胞分裂といい、もとは受精卵という1個の細胞だった君が、60兆個もの細胞になれたのは、この体細胞分裂というしくみのおかげだ」









*学生の自習ノート





























































●参考
セントラルドグマ
1.遺伝暗号の転写と翻訳
(1)遺伝暗号:アミノ酸配列に対応するDNAやmRNAの塩基配列。
①コドン・・・1種類のアミノ酸と対応する遺伝情報の単位で、mRNAの3つの連続した塩基がコドンとなる。
②コドンの解読・・・人工mRNAを用いて、4=64のコドンに対応する20種のアミノ酸が決定され、コドン表が作成された。
参考 コドン表から、1種類のアミノ酸には複数のコドンが対応する場合が多いこと、開始コドンや停止コドンがあることがわかる。







(2)転写と翻訳:DNAやmRNAの遺伝情報(塩基配列)は、RNAの塩基配列に写し取られ(転写)、それをもとにタンパク質が合成される(翻訳)。
(3)転写の過程:❶RNA合成酵素の働きでDNAの二重らせんの一部がほどける。→➋DNAの一方の鎖(塩基配列)を鋳型にして相補的な塩基をもつRNAのヌクレオチドが並ぶ。→➌RNAのヌクレオチド同士が結合してmRNAとなる。
(4)翻訳の過程:❶mRNAと、最初のコドンに対応するアミノ酸とtRNAが結合したアミノ酸―tRNA複合体と、リボソームが付着する。→➋次のコドンに対応するアミノ酸―tRNA複合体が、mRNAと結合する。→➌アミノ酸同士がペプチド結合(アミノ酸同士の結合をペプチド結合という)でつながる。→➍リボソームがmRNAのコドン1つぶんだけ移動する。→➎以降、➋~➍の過程が繰り返されてポリペプチド鎖が合成される。
参考 真核生物では転写は核内、翻訳は細胞質で行われ、両者が同時に起こることはない。原核生物では、転写と翻訳が細胞質内で、同時に行われる。
参考 スプライシング・・・真核生物では転写の際に、遺伝子の塩基配列の一部(イントロン)が除かれ、残った部分(エキソン)がつなぎ合わされてmRNAができる。これをスプライシングという。原核生物にはイントロンがなく、スプライシングもおこらない。

体細胞分裂に伴うDNAの複製
1.分裂
(1)体細胞分裂:体細胞が増殖するときに行う細胞分裂で、1個の母細胞から2個の娘細胞ができる。娘細胞の染色体数は母細胞と同じで変化しない。
(2)減数分裂:生殖細胞ができるときに行われる細胞分裂で、1個の生殖母細胞から4個の生殖細胞ができる。生殖細胞では染色体数、DNA量が半減している。
2.体細胞分裂の過程
体細胞分裂では、まず核が二分する核分裂が起こり、次に細胞質分裂が起こる。
分裂後の娘細胞は,間期のDNA合成準備期(G1)DNA合成期(S),分裂準備期(G2)を経て,次の分裂期に入る。
分化した細胞はふつう細胞周期から外れる。





過  程
間 期


DNA合成準備期(G1)DNA合成期(S),分裂準備期(G2)に分けられる。
S期ではDNAが複製され(S期にDNA量はもとの2倍にまで増加する)G2期では分裂の準備が整えられる。
分 裂 期
前期
核内の染色体は,細長いひも状に変わる。核膜が消失する。このとき現れる同形同大の染色体は相同染色体と呼ばれる。
中期
染色体は,細胞の赤道面に並ぶ。各染色体は,縦に裂け目ができている。
後期
各染色体は縦の裂け目で分離し,両極へ移動する。このようにして染色体は,母細胞の核に含まれる染色体の数と同じになるよう分配される。
終期
両極に移動した染色体は,形がくずれ,間期のときの状態に戻る。やがて核膜が現れ2個の娘核ができる。終期の途中から細胞質分裂がはじまり,細胞質が二分される。
参考 動物細胞はくびれて細胞質が二分されるが、植物細胞は細胞板ができて細胞が二分される。
        
































          
3.DNA量の変化
  分裂直後の娘細胞の細胞1個当たりのDNA量を基準量としたとき,間期のDNA合成期にDNAが複製されて基準量の2倍となり,分裂期の終期には基準量に戻る。
4.遺伝情報の発現
(1)全能性とゲノムの等価性:分化した細胞も受精卵と同様に体を構成するすべての細胞を作り出す能力(全能性)をもちうる。これは、核の遺伝情報が、細胞が分化しても変化せず、核には遺伝情報が保持されているからである。
①動物細胞の全能性・・・ガードンによるアフリカツメガエルの核移植実験
[方法]核小体を2個持つ未受精卵の核を紫外線で破壊し、核小体1個の小腸上皮細胞(分化した細胞)の核を移植して発生させた。➔[結果]核小体1個の細胞からなるカエルができ、移植核が発生初期のものほど正常発生する確率が高かった。
[考察]分化した細胞にも、受精卵と同じ遺伝情報が含まれている。
②選択的な遺伝子の発現:細胞にの分化は、それぞれの細胞で決まった時期に特有なタンパク質を作り出す遺伝子が選択的に活性化されることによって起こる。

●重要例題

細胞周期(間期と分裂期をあわせた時間)が20時間の細胞集団がある。この細胞集団を光学顕微鏡で観察したところ、分裂期の細胞の数は200個中10個だった。分裂期にかかる時間は何時間と推定されるか。考え方も示せ。なお、この細胞集団は同調して分裂していないとする。
答え:同調分裂していない細胞集団では、分裂期にかかる時間が長いほど、多く分裂期の細胞が観察されると考えることができる。したがって、



20時間(細胞周期全体):x時間(分裂期にかかる時間)
=200個(全細胞数):10個(分裂期の細胞数)


x=1
したがって分裂期にかかる時間は1時間


*学生による議論

A「計算がまったくわからない」

B「簡単だよ。長い時期ならば、その時期の細胞は多く観察されるというだけだよ」

C「そうだな。例えば、1日の半分寝ている村人がいるとするだろ?君がその村に行ったとき、村人の半分が寝てるだろうよ」

A「そんなの、夜村に行ったら全員寝てるじゃん」

B「屁理屈を」

D「いやいや、Aさん。まったくその通りだ。この計算が使えるのは、細胞が同調して分裂していないことが条件だね」

C「つまり、村人は、個人個人がランダムな時間に寝るんだ」

B「じゃあAさん。練習問題。一日1時間だけ、ランダムに寝る村人がいる。あなたが村を訪れたとき、どのくらいの村人が寝ている?もちろん1日は24時間だよ」

A「24人に1人が寝ている?」

C「その通りだ!」

D「では、細胞周期が20時間の細胞集団がある。この細胞集団を光学顕微鏡で観察したところ、分裂期の細胞の数は200個中10個だった。分裂期にかかる時間は何時間と推定されるか」

A「えっと、200個中10個が分裂期だったということは、細胞終期全体にかかる時間の10/200が、分裂期にかかる時間だ。細胞周期全体にかかる時間が20時間だから・・・

えっと・・・200人中10人・・・1日20時間・・・・

分裂期の長さは、1時間だ!」

C「その通りだ!すごいよ!それをスマートに書くと、数と時間は比例関係にあるから

200:10=20:?

?=10

になるんだね」

D「では、間期の時間は?」

A「20-1=19時間だ!」

B「完璧だね!」






2017年1月25日水曜日

反転授業用「生物基礎・遺伝子の本体(DNA)」



テーマ:遺伝子の本体


T「20世紀の初頭になると、科学者は、親から子に受け継がれる身体的特徴が、区別可能な最小単位(後に『遺伝子』と呼ばれるようになる)として受け継がれていくこと、核内にある染色体が遺伝情報の倉庫であることに気付き始めた。そして染色体の化学組成が決定され、数十年にも及ぶ研究の末にデオキシリボ核酸(DNA)が遺伝情報の実体として同定された。1953年のワトソンとクリックによるDNA二重らせん構造の発見を端緒とし(彼らは分子模型の組み立てに没頭[DNAのX線回折像を得ていたフランクリンは当初このやり方を軽蔑していたようである]し、二重らせん構造を発見した)、新たな科学が誕生した。分子生物学、それは遺伝子の構造と遺伝情報の伝達過程を解き明かすことを目的とした研究により成り立っている。驚くほど複雑なDNAおよびその同類分子であるRNAの構造と機能は、今もなお、研究者や学生を魅了し続けている」


Tは3枚の写真を持って話しかける。


T「私の親は誰だろう」




学生は笑いながら「中央」と答える。


T「おや、正解だ」


T「生物は、自身と似ている子をつくる。これは、親の遺伝子が子に伝わるからだ」


「遺伝子とは何ですか」


T「良い質問だ。簡単に答えるならば、『体の特徴を決めるもの』、もう少し難しく具体的に答えるなら、『DNAにある特定の領域の塩基配列』、正確に答えるなら、『定義が揺れていて、だれもわからない』」


T「とにかく、遺伝子はDNAの中にある。遺伝子は体の特徴を子孫に伝える。これを証明したのはハーシーとチェイスという研究者で、大腸菌にとりつくウイルス(T2ファージ)を用いて実験した」





T「今では10歳の子供でも遺伝子とDNAが関係していることを知っているが、昔は偉大な研究者でさえタンパク質が遺伝情報をもつと考えていた(染色体の構造を思い出してほしい。DNAとタンパク質は密接に結びついているので、遺伝子としての働きがどちらにあるかを求めるのは非常にやっかいだ)




T「グリフィスのエイブリーという二人の研究者の形質転換実験(ある種の細菌は他の細菌からDNAを取り込み、体の特徴を獲得する。この現象を形質転換という)から、DNAに注目する学者は、いたことはいた」





T「DNAタンパク質遺伝子論争に決着を付けるため、ハーシーとチェイスが使った構造物がこれ、T2ファージだ(実際の大きさは100nm程度ととても小さい)」


「なんと小さな生物でしょう!原核生物より小さな生物がいたなんて!」


T「いやいや、ウイルスは、代謝を行わないなどの理由でふつう生物とは呼ばないんだ。しかし、生物に非常に近い体を持つ。タンパク質の殻がDNAを包んでいる」



T「ハーシーとチェイスはウイルスのDNAを『標識(放射能を出すようなリン原子をDNAに取り込ませ、DNAから放射能が検出されるようにした)』し、大腸菌に感染させた」







T「そして遠心分離(重い物を試験管の底に落とす操作)した結果、試験管の底に沈んだ大腸菌の内部に、『標識』されたDNAが検出された(二人はタンパク質を標識して同様の実験をやってみたのだが、その場合は、大腸菌の外にくっついていた殻が振り落とされて、試験管の上層から標識されたタンパク質、つまりタンパク質の殻が検出された)」





T「ここから何がわかるかね?」


「ウイルスは、自身のDNAのを宿主の大腸菌に注入し、大腸菌内で子供をつくります」


T「その通りだ。DNAにより、ウイルスの情報が伝わると言うことは、遺伝子とDNAについて何がわかるかね」


「DNAこそ、体の情報をつたえる遺伝子の本体です」


T「よろしい。では、DNAの『使い方』は後で学ぶとして、今は二重らせん構造とよばれるDNAの構造について学ぼう」

T「これがその模型だ」










「DNAはヌクレオチドの鎖が2本、らせんをまきながらくっついたもので、『二重らせん構造(この構造はワトソンとクリックが発見した)』とよばれる構造をとる。君、ヌクレオチドとは何かね」


「塩基+糖+リン酸です」


T「シンプルで良い答えだ。ヌクレオチドが長くつながった核酸には、DNA以外にもRNAがある。DNAとRNAの違いは・・・」


T「糖がDNAではデオキシリボース、RNAではリボース。塩基がDNAではアデニン、チミン、グリシン、シトシン、RNAではチミンの代わりにウラシルが使われている。また、DNAは『二重らせん構造』をとるが、RNAはふつう1本鎖である」










T「DNAでは、2本のヌクレオチド鎖が、お互いの塩基で手をつないでいる。AとT、CとGが必ず結びついている。このような結合を『相補的』な結合と良い、このような塩基同士の性質を塩基の『相補性』という」











「DNAの塩基はどれが入っても良いのですか」


T「良い質問だ。構造的には、すべての塩基がA(アデニン)とT(チミン)のDNAなどもあり得る。しかし、それは何の意味もなさない」


T「実は、我々の体の情報を決定しているのが、この塩基の並び方なのだ。1つの塩基の文字が、通常と違ったものに変わるだけで(これを突然変異という。聞いたことがあるだろう?)、致命的な肉体的変化を引き起こす場合もある」


「RNAとは何ですか。遺伝子の本体ですか」


T「いや、そうではない。RNAはDNAにある情報から体をつくる過程を助ける分子だと考えられている。少なくとも、遺伝子の本体はRNAではない。あくまで主役はDNAだ。RNAもDNAの情報を元に作られる」




*学生の自習ノート










*学生による議論

A「ファージってかっこいい!」

B「一番かっこいい生物じゃない?」

C「ファージは生物じゃないよ」

D「DNAを持つのに?」

C「ファージは、代謝を行わないし、細胞膜も持たない。しかもほかの生物に依存しないと増殖できないんだ」

A「でも、タンパク質でできていて、核酸に遺伝情報を持っているよ」

C「しかし、DNAだけを使うものばかりでもないらしい。RNAに遺伝子を持ったり、一本鎖DNAを持っていたり、かなり生物とは違う特徴を持つよ」

B「ファージなどのウイルスは、生物と無生物の間の存在だね」

D「〇ィキペディアには『ウイルスを殺菌』などと書いてあるけれど、この言い方は正確でないようだね。ウイルスは菌類でも細菌類でもないし、そもそも生きていないものは殺せないのだから」



















●参考

DNA

1.DNAとRNA

(1)核酸糖・リン酸・塩基の結合した単位構造であるヌクレオチドが、鎖状に結合したポリヌクレオチドからなる。DNA(デオキシリボ核酸)RNA(リボ核酸)の2種類がある。


種類

働き


塩基

構造

存在場所

DNA

遺伝子の本体

デオキシリボース

A,T,C,G

二重らせん構造

主に核(もしくはミトコンドリア、葉緑体)


NA

伝令(m)RNA

遺伝情報の転写・運搬

リボース

A,,C,G

(覚え方)DNAとRNAはチがウ(TがU)

ふつう一本鎖

主に細胞質、一部は核内

転移(t)RNA

アミノ酸の運搬

リボソーム(r)RNA

リボソームの一部


(2)DNAの構造:糖とリン酸が交互に結合した2本の主鎖から内側につき出た相補的な塩基同士が水素結合で結びつき、二重らせん構造をとっている。

①遺伝子・・・DNAの特定の領域にある塩基配列。

②遺伝情報・・・遺伝子を含めたDNAの塩基配列全体。

③染色体・・・ヒストンというタンパク質に二重らせん構造をしたDNAが巻き付き、それが規則正しく折りたたまれて1本の染色体となる。

④ゲノム・・・核相同染色体の一方の一揃い(染色体数n)には、その生物の全遺伝情報があり、これをゲノムという。

(3)DNAの複製:細胞周期のS期に複製される。

①DNAの複製方式・・・半保存的複製(娘DNAの一方の鎖は親DNA由来)

2.遺伝子の本体

(1)肺炎双球菌:S型菌・・・カプセル(被膜)をもち病原性がある。

      R型菌・・・カプセル(被膜)がなく病原性がない。

(2)グリフィスの実験(1928年):肺炎双球菌の形質転換を発見。

①加熱殺菌したS型菌をネズミに注射→発病しない

②加熱殺菌したS型菌+生きているR型菌をネズミに注射→発病する

ネズミの体内から生きているS型菌が出現・・・形質転換(形質転換を起こさなかったR型菌は白血球に貪食されてしまうため観察されない)

(3)エイブリーらの実験(1944年):寒天培地で実験

①S型菌の抽出物+生きているR型菌→多数のR型菌とS型菌が出現(培地に白血球はないのでR型菌は生存)

②S型菌の抽出物+タンパク質分解酵素+生きているR型菌→S型菌が出現(培地に白血球はないのでR型菌は生存)

③S型菌の抽出物+DNA分解酵素+生きているR型菌→R型菌のみ

(覚え方)エイッと分解エイブリー(エイブリー、タンパク質やDNAの分解実験)

(4)バクテリオファージの増殖

ウイルスの特徴:①細菌より遙かに小さい(100nm)、②細胞構造がない、③タンパク質と核酸(RNAやDNA)からなる、④各ウイルスは特定の生物の細胞内で増殖

(2)ハーシーとチェイスの実(1952年);T2ファージを用いた実験でDNAが遺伝子の本体であることを証明。

(覚え方)ティーツーファージはチェイスとハーシー(実験材料と名前が似ている)