2016年1月19日火曜日

高校生物 第11講 分子生物学


cDNAについての講義動画はこちら

ジデオキシ法(サンガー法)の講義動画はこちら

真核生物の遺伝子発現調節の解説動画はこちら


予習

突然変異とは,DNAの塩基配列に生じる変化のことです。
通常,DNAの突然変異はランダムに起こるとされています。
突然変異にはさまざまな種類のものがあり,置換,挿入,欠失がその代表的なものです。
置換は,DNAのある塩基が別の塩基に変化してしまうもの,挿入は,DNAのある部分に別の塩基もしくは塩基配列が入り込んでしまうもの,欠失は,DNAのある部分から塩基もしくは塩基配列がなくなってしまうものをそれぞれ指します。


生殖細胞に変異が生じると、その変異は子孫に伝わっていきます(忘れがちですが大切なことです)。

人為的にDNAを操作することもできます。
制限酵素という酵素(はさみのようにDNAの2本鎖を切断します)でDNAを切り取り、DNAリガーゼという酵素(のりのようにDNA同士を接着させます)でつなぎかえることができます。

たとえば、大腸菌に別種の遺伝子を組込んで、人に有益な物質を大量生産することが可能なのです。
 


                        

講習
□ テーマ1 : 変異の種類を押さえよう!
突然変異という用語だけおさえればOK!
(1)環境変異・・・生育した時の環境の違いで生じた変異。ふつう遺伝しない。

補足
DNAのメチル化という現象が発見され、DNA以外に、形質を決める要素があることがわかってきた。
遺伝的操作を施したマウス胚の研究により、非メンデル遺伝、すなわちエピジェネティックな遺伝の奇妙なしくみが発見された。
親からの刷り込みと呼ばれ、2つの対立遺伝子のうち一方しか活性を持たないという現象が基礎になっている。
つまり、発生の精子細胞あるいは卵のどちらかの遺伝子が選択のうえ不活性化されるのである。
マウスとヒトには約30個の刷り込み遺伝子がある。これらの遺伝子は胎児の発生を制御していることが知られている。
DNAのメチル化による調節がかかわる(メチル化されると転写が抑制される)。
Igf2遺伝子では、精子の中でのみそのサイレンサー遺伝子(Igf2を抑制する遺伝子)のメチル化が起こる。
その結果、精子の中のIgf2遺伝子は発現する。卵の中のIgf2は抑制されたままである。


補足
ヨハンセンは、インゲンマメの純系(遺伝的に均一)の集団を自家受精を繰り返してつくった。
しかし重さの個体差はなくならなかった。残った変異(個体差)が環境変異を示している。この環境変異は生育環境の差によるもので、遺伝子によるものではないとされる(このような考えを純系説という)。


(2)遺伝する変異を遺伝的変異といい、突然変異によって生じる。
補足
突然変異はド・フリースが発見した。マラーは、キイロショウジョウバエにX線を照射し、人為突然変異に成功した。突然変異には以下の①と②がある。
①遺伝子突然変異(遺伝子の構造の変化によっておこる突然変異)
(i) 塩基がほかの延期に置き換わる置換
(ii) 塩基がなくなる欠失   
(iii) 塩基が付け加わる挿入

アクティブラーニング課題:一般に深刻なのは1塩基、または2塩基の挿入や欠失である。なぜか。


(フレームシフトする、コドンの読み枠がずれるから)


鎌状赤血球貧血症(ヘモグロビンβ鎖の6番目のアミノ酸がグルタミン酸からバリンに変異している)の原因となる変異遺伝子をヘテロにもつと、約40%の赤血球のヘモグロビンが鎌状血球ヘモグロビン(バリンは疎水性であり、別のアミノ酸が作る疎水性の「落とし穴」のような構造にすっぽりはまる。その結果、赤血球は凝集して桿状になる。)となる。
このような遺伝子をヘテロにもつ人は保因者とよばれる。
しかし、ホモにもつ患者に比べ比較的症状が出にくい。
マラリア原虫の生息場所に適さないので、この変異遺伝子はアフリカで保存されている。
保因者は正常な人に比べてマラリア疾患から生き残る確率が高い。

アクティブラーニング課題:グルコース6リン酸デヒドロゲナーゼ欠乏症は、劣性遺伝する遺伝病である。
この酵素が欠乏すると、赤血球における抗酸化分子であるNADPHの減少が起こる(高校では動物細胞内でNADPが使われることは習わない)。
この欠乏症はアフリカで多い。考えられる理由を説明せよ。






(赤血球内に生じた過酸化水素は、マラリア寄生虫の細胞を傷つける。)



アクティブラーニング課題:塩基の置換により、アミノ酸が変化するのではなく、極端に短いポリペプチドができてしまった。どうしてか考察せよ。


(置換により終止コドンができてしまった)


②染色体突然変異(染色体の数やその構造の変化)
(i) 染色体の一部がなくなる欠失 
(ii) 一部が繰り返される重複  
(iii) 一部が逆方向になる逆位
(iv) 他の染色体の一部が結合する転座
(v) 染色体は通常は2n本で、n本を基本数とすると二倍体だが、基本数の3倍になる3倍体などの倍数体が生じる。
 (vi) 染色体数が2nより1~数本多くなったり少なくなったりする異数体が生じる。
例:21番染色体が1本多い・・・ダウン症
男性で、性染色体がXXY・・・クラインフェルター症
女性で、性染色体がX・・・ターナー症

タネナシスイカについて
スイカの二倍体(2n)の芽をコルヒチン処理し、四倍体(4n)にしたあと、その個体のめしべに二倍体の花粉(n)を受粉させ、三倍体(3n)の個体を得る。
三倍体のめしべに二倍体の花粉(n)を受粉させると、どうなるか。
⇒三倍体では染色体が3セット(奇数!均等に分けられない!)あるので減数分裂が正常に行われず(正常な卵細胞ができず)、種はできない。
しかし、受粉の刺激で子防壁が発達し、タネナシスイカが生じる。

□ テーマ2 : 植物の組織培養についてマスターしよう!
カルスという用語は必ず出る!!また、オーキシン⇒根、サイトカイニン⇒芽と覚えておこう。
植物の組織培養・・・カルスとよばれる未分化の細胞塊を、無機塩類・糖・オーキシン・サイトカイニンを含む培地で培養すると、葉や茎、根が形成される。
オーキシンが多いと根が、サイトカイニンが多いと葉と茎が分化してくる。
「サイ『ト』カイニン!葉『と』茎!」

オーキシンやサイトカイニンを植物ホルモンという。
補足
植物ホルモンとは、植物体内で作られ、ホルモンの作用を示す有機化合物である。



動物の細胞融合の場合は、センダイウイルス(東北大学で発見された)に感染させることで、細胞融合を行うことができる。
例えば、B細胞から分化した抗体産生細胞と、盛んな増殖能力を持つ細胞を融合させ、雑種細胞(ハイブリドーマという)をつくり、大量に1種類の抗体(モノクローナル抗体)をつくることができる。

□ テーマ3 : 遺伝子組換えは使うものを押さえよう!
なんといっても、テストに出るのは制限酵素とDNAリガーゼ!!
(1)テストに出る遺伝子組換えに用いる実験材料ベスト3!


1.制限酵素・・・DNAを特定の塩基配列で切断する酵素。以下のような種類がある。

2.DNAリガーゼ・・・DNA断片をつなぎあわせる酵素
3.ベクター・・・遺伝子を運ぶもの。プラスミドやレトロウイルスを用いる。

アクティブラーニング課題:あるタンパク質を大量に得たいとする。そのタンパク質をコードする遺伝子部分を制限酵素で切り出し、以下のようなプラスミドに組込んだ。そして得たプラスミドを大腸菌に導入した。

大腸菌の中には、遺伝子の組み込みにに失敗したプラスミド(左)が導入されたもの、目的のプラスミドが導入されたもの(右)、プラスミドが導入されなかったものが存在する。どのように右のプラスミドをもつ大腸菌を選別すればよいか。


(抗生物質Aで生育できる大腸菌のうち、青色に発色しないものを選ぶ)


補足


レトロウイルスは、遺伝子としてRNAをもち、宿主細胞に感染すると逆転写酵素を使ってDNAをつくり、これを宿主DNAに組み込んで増殖するウイルスである。

(2)遺伝子組換えの手順
① 大腸菌には本体のDNAとは別に小さな環状DNAがあり、これをプラスミドという。
このプラスミドを取り出し、制限酵素を使って切断する。
② ヒト成長ホルモンの遺伝子を含む部分を①と同じ制限酵素で切り出す。
③ ①でつくったプラスミドと②のDNA断片を混合し、切断端どうしの塩基対を形成させ、さらにDNAリガーゼで連結させる。
④ 組換えたプラスミドを大腸菌に注入して大腸菌を培養する。
アクティブラーニング課題: 実際にはヒト成長ホルモンのmRNAを逆転写酵素によって逆転写させ、mRNAに相補的なDNA鎖をつくる。
これを鋳型にしてPCRによって複製させた二本鎖DNAをつくり、これを用いる。
なぜそのようなことを行う必要があるか。

(大腸菌にはスプライシングのしくみがないので、成長ホルモンの遺伝子をそのまま使うと、イントロンの部分まで翻訳されてしまい、目的とするタンパク質が合成されないから。)
⑤ ①で使ったプラスミドのように、目的とする遺伝子を細胞内に運ぶものをベクターという。
⑥ 同様の手法で、多細胞生物に、別の生物の遺伝子を組み込んだ生物も作成されており、このような生物をトランスジェニック生物という。

トランスジェニック生物の例:

スーパーマウス(ラットの成長ホルモンの遺伝子をもち、ふつうのマウスの2倍の大きさになる)

GFP遺伝子を組み込んだアフリカツメガエル(研究対象遺伝子と隣接させてGFP遺伝子をつなぐので、目的のタンパク質と一緒にGFPも翻訳される。
目的のタンパク質にくっついたGFPが、緑色の蛍光を発する。
するとそのタンパク質が働いている場所がわかる。

アクティブラーニング課題:GFPのどこが便利なのか。細胞に色を付けるなら染色液があるではないか。

(生き物を殺さずに生きたままタンパク質の局在をみることができる。例えば酢酸オルセインなどは細胞が死んでしまう)


GFP=オワンクラゲがもつ蛍光タンパク質。2008年にノーベル化学賞を受賞した下村脩によって、発光タンパク質であるイクオリンとともに発見され、分離精製された。


 □ テーマ4 : PCR法をマスターしよう!
PCRに熱に強いDNAポリメラーゼが使われることは絶対問われる!!
ポリメラーゼ連鎖反応法の略だが、PCR法とだけ覚えておけばよい。
PCR法・・・特定の塩基配列を、人為的に短時間で大量に増幅させる方法。
各ステップにおける反応温度と目的が問われる。
①DNAを約95℃で処理⇒ 2本鎖を1本鎖にほどくため。
②プライマーを加え、約55℃で、増幅させたい配列の両端にプライマーを結合させる。
③約70℃の温度でDNAポリメラーゼを働かせ、DNAを複製させる。
④生じた2本鎖DNAを再び95℃でほどき、同じサイクルを繰り返す。

アクティブラーニング課題:PCRに用いるDNAポリメラーゼの特徴を応えよ。

(高温でも失活しない)

□ テーマ5 : ES細胞とiPS細胞について知っておこう。
ES細胞とiPS細胞の違いだけおさえればOK!あなたの細胞からiPS細胞はつくれるが、あなたのES細胞はもう得ることはできない!
(1)ES細胞を用いた「キメラのつくりかた」を理解しよう!
ヒト受精卵から発生し5日目程度、ウニやカエルの胞胚期に相当する時期は、ヒトでは胚盤胞期に相当し、胚は胚盤胞となっている。
胚盤胞は、内部細胞塊と栄養膜からなり、内部細胞塊から胎児が生ずる。
栄養膜はやがて胎盤になる。
この内部細胞塊を取り出し、人工的に培養して得られるのがES細胞(胚性幹細胞)である。
分化多能性に近い性質を持つが、いくつかの問題点もある。

アクティブラーニング課題:ES細胞にはどのような問題があるか。


(倫理的な問題や、拒絶反応の問題)

(2)iPS細胞(人工多能性幹細胞)・・・山中伸弥教授らは、マウスの皮膚繊維芽細胞に4つの遺伝子を導入し、分化多能性をもった細胞を作製した。

iPS細胞は様々な細胞への分化に成功しているため、分化全能性をもつとされることもある。
植物細胞は簡単に脱分化する(脱分化した植物細胞の細胞塊をカルスという)。


□ テーマ6 : サンガー法をマスターしよう!
見ておくだけ!実験名もほぼ問われない!
サンガー法(別名:ダイターミネーター法、ジデオキシ法)・・・塩基配列を調べる方法。
(1) DNAをDNAポリメラーゼやプライマーを使って増幅させていくだけだが、DNA合成の材料になる4種類のデオキシヌクレオチド以外に、4種類の、蛍光色素で標識したジデオキシヌクレオチド(糖部分に2’-OHも3’-OHもない特殊な修飾基質)を少量加えておく。
ポイント⇒複製の途中でジデオキシヌクレオチドが取り込まれると、そこでDNA合成がストップしてしまう。(3’-OHがないので、DNAポリメラーゼがそれ以上ヌクレオチドを結合できない。そこで鎖の伸長が止まる。)
ジヌクレオシドは蛍光色素で標識されている(A、T、C、Gを塩基によってそれぞれ違う色で標識されている)ので、合成されたDNAの先端(合成がストップしてしまったところ)にジヌクレオシドの色がついていることになる。
(2)DNAは負に帯電している。電気泳動を行い、長さ別に分ける。
電気泳動の原理:アガロース(寒天)ゲルやポリアクリルアミドゲルを入れた容器に電場を生じさせ、DNA断片をゲルの中に流すと、短いDNA断片ほど+に近づく。
補足
ちなみに、ゲルをナイフで切り出せば、特定の長さのDNA断片だけを得ることができる。
電気泳動と似たような方法はタンパク質にも使える。
イオン交換クロマトグラフィー(タンパク質の持つ電荷でわける)
ゲル濾過クロマトグラフィー(タンパク質の大きさで分ける)
□ テーマ7 : 組換え
太字だけ覚えよ!
減数分裂の際、染色体の乗換え、遺伝子の組換え起こる。
補足
染色体の乗換えは正常な減数分裂に不可欠である。実は、この現象は減数分裂のときだけにおこるものではない。
電離放射線や化学物質がDNAに二本鎖切断が起こることはよくあり、それを修復するのにも組換えのしくみがかかわる。
生物は皆(なんと大腸菌でさえ)、組換え反応を触媒する酵素群の遺伝子を持つ。
(詳しく述べない。大学で学びなさい。)


□ テーマ8 : 出題頻度は低いが、その他のバイオテクノロジーについても見ておこう。
見ておくだけ!その場で考える考察問題がほとんど!




 現在の遺伝子操作技術では,特定の遺伝子を発現しないようにすることができる。これを遺伝子のノックアウトという。この技術によって作成されたマウスは,ノックアウトマウスと呼ばれる

 遺伝子導入技術を応用すると、人為的に導入した外来の遺伝子をもつ細胞からなる個体を作成できる。
このような個体はトランスジェニック生物と呼ばれる。トランスジェニック生物が食品として利用される場合,それらの食品は,一般に遺伝子組換え食品と呼ばれる。

トランスジェニック植物の作成には,主にアグロバクテリウムという細菌が使われる。
アグロバクテリウムのプラスミドに目的とする遺伝子を組み込み,植物細胞に感染させると,目的の遺伝子が細胞に導入される


 バイオテクノロジーの技術は,特定の個体の識別にも利用されている。
同じ種であっても,ゲノムには多くの個体差がある。これを判別する方法の1つに,ゲノム中の決まった塩基配列がくり返し現れる部分(反復配列)を調べるものがある。


ヒトゲノム中には多くのSNP(スニップ、一塩基多型)が存在する。SNPを調べることで病気の原因となる遺伝子の探索が行われている。