2016年1月19日火曜日

高校生物 第10講 DNA


予習

核酸にはDNAとRNAがあります。核酸というのはヌクレオチドと呼ばれる物質が長く繋がったものです。
塩基と糖が化合物をヌクレオシドといい,そこにリン酸が結合したものをヌクレオチドといいます。

核酸を構成する塩基にはアデニン(A),グアニン(G),シトシン(C),チミン(T),ウラシル(U)の5種類があり,アデニン,グアニン,シトシンはDNAとRNAに共通です。チミンはDNAにのみ,ウラシルはRNAにのみ存在します。
これら塩基は水素結合を通じて対合する性質があり,アデニンとチミン,アデニンとウラシル,グアニンとシトシンとの間で,それぞれ水素結合が形成されます。
核酸のこのような性質を相補性といいます。
DNAの複製方式を半保存的複製といいます。
一方の鎖が鋳型となってそこによりそうように新しい鎖が合成されていきます。

DNAには遺伝子があり、遺伝子はタンパク質の設計図となっています。
次の単元で詳しくお話ししますが、遺伝子に変異が起きると、できるタンパク質に異常が生じる場合があります。


講習
□ テーマ1 : DNAについての基礎知識を押さえよう!

(1)核酸
糖、リン酸、塩基からなる物質をヌクレオチドという。このヌクレオチドが多数結合したものを核酸といい、核酸にはDNAとRNAがある。

補足
ヌクレオチド中の「塩基」とは、ふつう、「弱い塩基性をもつ窒素化合物(正確には、窒素原子を含む芳香族化合物であるプリンまたはピリミジンの誘導体)」のことを指す。
核酸の糖にはデオキシリボースとリボースがあり、デオキシリボースを使っている核酸をDNA、リボースを使っている核酸をRNAという。


糖と塩基が結合したものをヌクレオシドという。アデノシンなどがある。
糖➕アデニン=アデノシン
糖➕グアニン=グアノシン
糖➕チミン=チミジン
糖➕シトシン=シチジン
糖➕ウラシル=ウリジン

などのヌクレオシドがあるが、アデノシン以外ほぼテストに出ない。)


(2)DNAの複製
DNAを合成するのはDNAポリメラーゼ!!必ず覚えよ!!
 半保存的複製を実験で証明したのはメセルソンとスタール。
塩化セシウムを使った密度勾配遠心法により証明した。

塩化セシウム溶液に強い遠心をかけ、塩化セシウムの密度勾配をつくる。
ここにDNAを入れ遠心すると同じ密度の部分にDNAがとどまる。
DNAを密度で分離できる。


DNA複製における主役の酵素はDNAポリメラーゼ(ヌクレオチド鎖の3´末端に新しくヌクレオチドを結合する)
補足

テロメアという言葉を聞いたことがあるだろうか。
真核生物では、染色体の末端はテロメアとよばれ、TGの多い 塩基配列が繰り返しつながっている。

テロメアーゼという特殊なDNAポリメラーゼが強く発現している細胞 では、テロメアの伸長により末端複製問題が解消される。

ラギング鎖では、プライマーをまず設置し、そこから複製フォークの進行方向とは逆に新鎖が合成される。

ふつう、プライマーは除去されるが、後ろから、つまり複製フォークの開裂部から新しいDNAが合成してくるときにその空白は埋められる。

ラギング鎖のラスト、最後のプライマーを設置した場所は、プライマーが除去された後、何も残らない。

もうその先にプライマーを置くところがないからである。

したがってDNAは短くなる。

複製のたびに、DNAの末端が短くなってしまうという問題を末端複製問題という。



半保存的複製という言葉を必ず覚えよ!証明方法もよく問われる!密度勾配遠心分離という用語はたま~に問われる!
メセルソンとスタールによる密度勾配遠心法


生物学で最も美しい実験のひとつで、メセルソンとスタールによる半保存的複製の証明に用いられた。
保存的複製と分散的複製を華麗に否定している。



アクティブラーニング課題:ある細菌染色体は5.2×10の6乗塩基対の環状二本鎖DNA分子である。
この染色体は複製起点を1個もち、複製フォークの移動速度は100ヌクレオチド/秒である。

染色体の複製にかかる時間を計算せよ。

(複製フォークは2個形成され、反対向きに2方向に移動していくことに注意せよ。

2.6×10の6乗/1000塩基対/秒=2600秒=43分20秒)




















□ テーマ2 : 原核生物のセントラルドグマをマスターしよう!

(1)原核生物の転写・翻訳
原核生物では、転写と翻訳が同時に同じ場所(細胞質基質)で行われることをおさえよ!転写の方向・翻訳の方向が必ず問われる!
補足


真核生物では、核内で転写とスプライシングが、核外(細胞質基質)で翻訳が行われる!

スプライシングという機能を獲得するためにDNAを核膜で覆っているとも考えられる。

(2)オペロン説
オペロン説、オペレーター、調節遺伝子、リプレッサー、プロモーターの定義さえ覚えれば、最低点は取れる!あとは考察問題対策として、仕組みを必ず理解せよ!


ラクトース分解酵素の合成を支配する遺伝子群を構造遺伝子(あるいはオペロン)という。

オペロン説はジャコブとモノーが提唱した。

DNAのプロモーター領域にはRNAポリメラーゼが結合し、転写を開始する。

しかし、別にあるオペレーター領域にリプレッサーというタンパク質が結合するとRNAポリメラーゼは転写を開始できなくなる。


リプレッサーは調節遺伝子から転写・翻訳される。

オペロン説はジャコブとモノーが提唱。
大腸菌の利点から理解しよう!

(i)培地にラクトースがある時だけラクトース分解酵素をつくっている!

(ii)培地にトリプトファンがない時だけトリプトファンを自分でつくってる!


ラクトースは乳汁にも含まれる二糖類!トリプトファンはアミノ酸!



アクティブラーニング課題:ラクトースを含まない培地でもラクトース分解酵素を合成してしまう大腸菌の変異体が存在する。どのような原因が考えられるか。リプレッサーやオペレーターに着目していくつか仮説を挙げよ。







(オペレーターに突然変異がおこり、リプレッサーが結合できなくなった。調節遺伝子に突然変異がおこり、リプレッサーのオペレーター結合部位の立体構造が、オペレーターに結合できないように変化した。)

□ テーマ3 : 一遺伝子一酵素説をマスターしよう!
一遺伝子一酵素説という言葉は必ず問われる!覚えよ!
(1)野生のアカパンカビだけが生育できるようなもっとも簡単な組成の合成培地を最小培地という。

野生型のアカパンカビは、最小培地に含まれている糖から、アルギニンというアミノ酸を合成する。 

この反応系では、ひとつひとつの反応に別々の酵素が働くと考えられる。

X線などでアカパンカビの突然変異株をつくることで一遺伝子一酵素説の研究が行われた。

X線を照射し、アルギニンをつくる代謝経路で働く酵素をコードする遺伝子を壊す。

どの酵素をコードする遺伝子が壊れたかは、培地にどの栄養を加えれば生育できるかを調べることで確かめられる。


例えば


酵素αは物質AをBに変え、



酵素βはBをCに変え、



酵素γはCをDに変え、



最終的にできるDが生存に必要な物質であるとする。



(一遺伝子一酵素説の問題では、遺伝子の変異は1か所であるという暗黙の了解がある。よい問題なら明記してくれる。)



酵素αをつくれない変異体は、物質Aが培地にあっても生育できない。

AをBに変えることができないからである。

しかし、BやCが培地にあれば、生育できる。

酵素βやγは持っているからである。



酵素βをつくれない変異体は、培地にAやBがあっても生育できない。

BをCに変えられないからである。



酵素γをつくれない変異体は、培地にAやBやCがあっても生育できない。

CをDに変えられないからである。











「一つの遺伝子は一つの酵素合成を支配し、その酵素の働きにより特定の反応が促進されて特定の形質が発現するという考え方」
一遺伝子一酵素説といいビードルとテータムがアカパンカビ(子のう菌類)を用いた実験で提唱した。


「びーどる(ビードル)そのパンカビ(アカパンカビ)はえてるってー(テータム)!」「いちいちうるさいなあ!(一遺伝子一酵素説)」
補足
最小培地では生育しないが、
最小培地に特定の栄養分を加えて培養すると生育可能な突然変異株は、
栄養要求株(栄養要求体または栄養要求突然変異体)とよばれる。



アクティブラーニング課題:1つの遺伝子は1つのたんぱく質を指定するという説を一遺伝子一タンパク質説という場合がある。この例外を示せ。


(タンパク質の四次構造を考えた場合、サブユニットは別々の遺伝子によって支配されている場合がある。

選択的スプライシングでは、どのイントロンを除くか、どのエキソンを使うか選択することで、一つの遺伝子から複数種のタンパク質ができる。)


□ テーマ4 : 真核生物の遺伝子発現のしくみをマスターしよう!

(1)クロマチン繊維
ヌクレオソームとクロマチン繊維という用語を覚えよ!
真核生物のDNAは、タンパク質であるヒストンと結合してヌクレオソームとなり、さらにこれが複雑に折りたたまれて、クロマチン繊維という構造をとっている。

クロマチン繊維の高次構造がゆるむことでRNAポリメラーゼがDNAと結合できる状態になる。

現在注目されている遺伝子発現の調節法である!クロマチン構造の変化により遺伝子のON・OFFが調節できる!

RNAの修飾(プロセシングという)は実はスプライシングのほかにも種類があるが、高校で習うのはスプライシングのみ。     
    
(3)基本転写因子
真核生物の転写に必要といえば基本転写因子!!よ~く問われる!
真核生物のRNAポリメラーゼがプロモーターに結合するためには、基本転写因子と呼ばれるタンパク質を必要とする。

(4)転写調節領域
調節タンパク質という用語がたまに出る!
プロモーター以外にも転写調節領域と呼ばれる領域があり、ここに結合するタンパク質を調節タンパク質という。調節タンパク質が転写調節領域に結合することで、転写の促進や抑制が行われ、転写量が調節される。
補足

真核生物では、転写開始点と転写調節領域がかなり離れている場合が多い。
この事実が研究を難しくしている。




アクティブラーニング課題:どのようにして遠く離れた転写調節領域が転写速度に影響を与えるのか。



(DNAが湾曲し、転写調節領域に結合した調節タンパク質がRNAポリメラーゼ、基本転写因子と相互作用する、DNAを湾曲させる特別なタンパク質が存在する)






補足
RNA干渉は最近話題のテーマである。

真核生物のゲノムからは、タンパク質をコードしていないRNAが多数転写されている。

これらのRNAはさまざまなタンパク質と相互作用し、やがてRISC複合体という構造を形成する。

RISC複合体は、別のRNAを切断するなどの働きを持つものがある。

この現象をRNA干渉という。

真核生物において、RNA干渉によって全遺伝子の30%が発現抑制されているとの予測がある。

RNA干渉は、RNAウイルスの感染に対する防御機構として働いていると考えられている。

RNA干渉は、ウイルス由来の配列の増幅や移動(ウイルスに導入された配列が増幅したり移動したりすることはよく知られている。動く遺伝子については、トランスポゾンという配列が知られている。)を抑制していると考えられている。

アクティブラーニング課題:リボソームタンパク質の翻訳にはリボソームが必要である。では、地球史上初めてのリボソームタンパク質の翻訳はどのように行われたか。









(RNAがタンパク質合成反応の触媒として働いたと考えられている。昔、RNAワールドといって、RNAが触媒と遺伝物質としての役割を同時に果たしていた時代があった。やがて触媒としてタンパク質が、遺伝物質としてDNAが使われるようになった。)



アクティブラーニング課題:触媒活性のあるDNAは見つかっていない。RNAが酵素として働くときの利点はなんであろうか。



















(RNAは1本鎖であるので、塩基同士が結合することで様々な立体構造をとることができる。この立体構造をとるということが重要で、タンパク質も特定の立体構造をとることによって触媒活性を持っている。高温や極端なpHによって立体構造が崩れ、そのことを変性という。また、酵素が活性を失うことを失活という。DNAは二重らせんで安定しており、立体構造の自由度は低い。)









アクティブラーニング課題:どうして生物はRNAに遺伝情報を込めることをやめたのか。






 
 
(RNAは1本鎖であり、不安定で壊れやすい。1本鎖なので欠失や挿入などの修復も難しい。大学で実験すれば、いかにDNAが壊れにくく、RNAが壊れやすいかわかる。RNAに関する実験を素手で行うことはまずありえない。また、あらゆる細胞の中にRNA分解酵素は大量に存在する。理由は大学で。)