2016年1月19日火曜日

高校生物 第19講 動物の行動・個体群


密度効果の授業はこちら

生存曲線の授業はこちら

群れと縄張りの授業はこちら

血縁度の授業はこちら

予習

農作物をぎゅうぎゅうに畑に詰めて育てると、収穫量は増えるでしょうか?実はそうではありません。
1個体1個体の収穫量が減ります(栄養が足りなくなりますからね)。
このような密度による効果を密度効果といいます。
動物でも有名な例があります。
バッタです。ぎゅうぎゅうに密度が高い場所で育ったバッタは、色が茶色く、羽が体の比率に対して相対的に長くなります。これは、新たな土地を探して飛ぶことに有利な形質です。
逆に低い密度で育ったバッタは、色が(環境によって変わるが、)緑で、後ろ脚が発達します。
育った密度によって、その後の生活が有利になるような形質を持つのです。


生物間にはさまざまな関係があります。共生(お互いが利益を得る相利共生や、片方だけが利益を得る片利共生)や、寄生(片方が利益を、他方が不利益を受ける)の関係などあります。

縄張りをもっているものいます。群れを作るものもいます。これには、自分たち同種同士で争う種内競争、他種と争う種間競争が関係します。

生物は種間競争を避けるため、喰いわやすみわけなどを行います。ニッチが重なるのを避けているのです。
ニッチとは、生態的地位のことで、食べるものや住む場所など、その生物の生態系の中での地位を指します。ニッチが重なると、競争が起こるのです。




講習

資料集での学習が楽しい分野である。資料集を活用すること。
新課程では出題頻度は高くない。流し読みでOK!考察問題で出る!

□ テーマ1 : 動物の行動について見ておこう

①特定の行動を引き起こさせる外界からの刺激をかぎ刺激という。
例:イトヨの雄は、腹部が赤い雄に対して攻撃行動を起こす。
この場合、赤い腹部がかぎ刺激となる。

似てない模型でも、おなかのところが赤いと攻撃する。⇒赤いお腹が「かぎ刺激」だから。
イトヨの雄の求愛ダンスをジグザグダンスという。
このダンスのかぎ刺激は雌の膨らんだおなかである。ジグザグダンスは次の雌の行動のかぎ刺激になり、・・・といった風に、かぎ刺激とその後の行動が連鎖して、一連の生殖行動をとるという考えがある。(ティンバーゲンの研究)

②環境中の刺激を目印にして特定の方向を定めることを定位という。
例:
●メダカは、水の流れてくる方向に向かって定位して動く(正の流れ走性という)。
●メンフクロウは、標的からの音を、左右の耳に到達する時間差や強弱の差について分析し、定位する。
●コウモリは、標的から跳ね返ってくる反響音(エコー)を分析することにより定位する。これを特に反響定位という。
●カイコガの雄は雌の性フェロモンを触角にある嗅細胞で認識し定位を行う。
●ホシムクドリは、渡りをする季節になると、渡りをする方向を向く。太陽の位置で定位している(太陽コンパスという)。太陽コンパス以外にも、星座コンパスや地磁気コンパスを定位に利用する動物(渡り鳥など)もいる。
定位の現象はよく知られているが、その分子機構は解明中である。

③動物が、刺激に対して一定の方向に移動する行動を走性という。刺激源に近づく場合正、刺激源から遠ざかる場合負という。原始的な行動である。例がよく出る。
例:
●正の光走性(ミドリムシ、ガ):ライトに虫は寄ってくる!
●負の光走性(ミミズ、プラナリア):ミミズは暗い所へもぐる!
●正の流れ走性(メダカ、サケ(産卵期)):サケは産卵期、川を上る!
●負の流れ走性(サケ(成長期)):サケは成長期、川を下る!
●正の化学走性(カイコガ):カイコガは性フェロモンに向かう!
●負の化学走性(ゾウリムシ(強酸)):強酸からは逃げないと死んじゃう!
●正の重力走性(ミミズ):ミミズは土壌へもぐる!
●負の重力走性(ゾウリムシ、カタツムリ):ゾウリムシは試験管の上部に集まる!
●正の電気走性(ミミズ、ヒトデ):+極へ向かう!
●負の電気走性(ゾウリムシ):-極へ向かう!こちらは少し有名!


走性<反射<本能行動<学習行動<知能行動の順に高度といわれることがあるが、多くの場合明確な区別はできない。

④生後特定の時期のみに起きる学習を刷り込みという。
例:アヒルのひながふ化後間もない時期に身近でみたものの後を追うようになる。
(刷り込みを研究しノーベル賞を取った、動物行動学の始祖、ローレンツの写真を資料集で見てみよう。面白い。

⑤同じ刺激が繰り返されることで反応しなくなる単純な学習を慣れという。
例:アメフラシの水管に触れるとえらを引っ込める反射(えら引っ込め反射)が、繰り返し刺激を与えると起こらなくなる。

⑥慣れの後、尾部(水管とは別の体の部位)を電気ショックで刺激すると、慣れにより起こらなくなっていたえら引っ込め反射を再び行うようになる。これを脱慣れという。

⑦さらに強い電気ショックを尾部に与えると、ふつうでは生じないほどの水管への弱い刺激でも敏感にえら引っ込め反射が起こるようになる。
これを鋭敏化という。
慣れ、脱慣れ、鋭敏化の現象は、シナプスでの伝達効率の変化によるものである。
シナプスでの伝達効率が変化することをシナプス可塑性(かそせい)という。
  
⑧尾部への刺激が、なぜ水管とえらが関わる反射に関係するのか?しくみは以下のとおりである(YouTubeの講義も参考にしてください)。

・尾部で発生した興奮を伝えられた介在ニューロンが、水管から伸びた感覚ニューロンに影響を与える。セロトニンという物質で影響を与える。

・セロトニンはcAMP(サイクリックAMP:セカンドメッセンジャーとして働き情報を細胞内に伝える)を介して、ある種のカリウムチャネルを不活化する。

⇒活動電位の持続時間が長くなる(活動電位が終わるのは、K+がカリウムチャネルを通って流出するからだった)。

⇒Ca2+の流入時間が長くなる。

⇒多くのシナプス小胞が開口する。

神経伝達物質の放出量が増加する(えらにつながる運動ニューロンへの伝達効率が高まる)。


⑨本来の反応を引き起こす刺激(無条件刺激)とは無関係の刺激(条件刺激)と反応が結びつくことで行われる学習を条件反応という。例がよく出る。
例:パブロフの実験・・・犬に、肉片を与える(無条件刺激)直前にベルの音(条件刺激)を聞かせることを繰り返すと、ベルの音だけで唾液を分泌するようになった。

⑩マウスに電気ショック(無条件刺激)を与えると全身がすくみ、心拍増加・血圧上昇などの恐れ反応が生じる。このような訓練をせず無条件的に生じる反応を無条件反応という。音刺激(条件刺激)と一緒に電気ショックを与え続けることで、音刺激のみで恐れ反応が生じるようになる。

⑪何回も試行を繰り返して成功効率を高めていく学習を試行錯誤という。

⑫経験を通して行動の変化を獲得することを学習という。

⑬生まれつき備わっている行動、つまり遺伝的なプログラムに支配された行動を生得的行動(本能行動)という。

⑭過去の経験をもとに、未体験の事象に対処する行動を知能行動という。「知能をもつのはショウジョウ類やヒト類に限られる」とすることもある(定義はさまざまである)。


□ テーマ2 : 個体群

生物の個体数が増加することを個体群(こたいぐん)の成長という。

細菌を培養すると,細菌の個体数は1 → 2 → 4 → 8 → 16 → 32というように増殖する。

しかし,実際に個体群の成長は無限に続くわけではなく,ある環境のもとでの増殖には限界がある。

密度の増大に伴い,栄養分や生活空間が不足したり,増殖を抑えたりするような排泄物(はいせつぶつ)が蓄積するなどして,個体群の成長が抑えられるからである。

個体群密度の変化に伴って,個体群の性質が変化することを密度効果(みつどこうか)という。


 植物でも密度効果はよく知られている。

一定面積に密度を変えてダイズをまくと,芽生えて間もないころは,高密度でまいた区画の方が面積あたりの重量は大きい。

しかし,時間とともにその差は減少し,やがて最初にまいた密度にかかわりなく一定の重量に達する(最終収量一定の法則)。

これは高密度の条件では,光や栄養分をめぐる個体間の競争が激しくなるからである。

このように同種の生物の個体間で見られる競争を種内競争(しゅないきょうそう)という。種内競争は密度効果を引き起こすおもな要因となっている。

種内競争に対して、異なる種の生物が、生活空間やえさを取り合うことを種間競争という。

★アリー効果・・・・・・・密度効果とは反対に,あるレベルの密度までは,密度が高いほど個体群の成長が促進されることが知られている。これは正の密度効果,またはアリー効果とも呼ばれている(アリーは研究者の名前にちなんでいる)。個体群の成長を可能にするには,ある程度まとまった数の個体が必要である。



個体群密度の変化は,産卵数や死亡率の変化以外にも,形態や生理,行動などを顕著に変化させることがある。

バッタのなかには,しばしば大発生するものがある。

このような昆虫は,幼虫期の個体群密度が高くなると,個体間の相互刺激が強まり集団で生活するようになる。

この状態が数世代続くと,やがて翅(はね)が長く,遠くまで飛ぶ能力が高い個体が出現する。

バッタは食物が多いときには定住して個体数を増やすうえで有利な形質をもつが,やがて個体群密度が上昇して食物が不足してくると,新天地を求めて移動力を高めるような形質をもつ個体が出現する。

このように個体群密度の変化によって,個体の形態や行動などが大きく変化する現象相変異(そうへんい)という。

低密度のときに出現する型を孤独相(こどくそう),高密度のときに出現する型を群生相(ぐんせいそう)という。

これは不安定な環境にすむ生物の適応のひとつである。

これは進化ではない!バッタの遺伝子の塩基配列に変異が起こって(突然変異によって)黒くなったわけではない!
個体間の接触によって内分泌活動に変化が起きることが原因とされる。

(このように、単一の遺伝子型が示す表現型の変化を表現型可塑性という。特に、個体群密度の変化によって、形態や行動などが変化する現象を相変異という)

(群生相の子供は高密度による正のフィードバックを介してさらに群生相の特徴が増加される!正のフィードバックにより、2~3世代維持される)

(このような相変異はヨトウガ類など、他の種にもみられる)


A 群れ
 動物の個体が集まって,一緒に移動したり採食したりする集団を群れという。

群れをつくることには,さまざまなメリットがある。

食物となる生物が多い場所を見つけたり,天敵の来襲(らいしゅう)をいち早く察知したりするには,単独でいるより群れでいた方が効率がよい。

また,群れでいれば交配相手を容易に見つけることもできる。

 一方,群れをつくると個体群密度が高まるので,密度効果による不利益もある。

食物が不足して争いが起きたり,排泄物(はいせつぶつ)によって生育環境が汚染されたりするからである。

そのため,群れの大きさは利益と不利益のバランスで決まっていると考えられている。





B 縄張り
 動物のなかには,1個体や1家族が空間を占有し,ほかの個体がその空間に侵入してくると追い払う行動を示すものがある。

このような防衛された空間を縄張り(テリトリー)という。

それに対し,動物が行動する範囲であるが,防衛されない空間のことを行動圏(こうどうけん)という。(難関大で問われる)

行動圏は互いに重なり合うことが多いが,縄張りはふつう重ならない。

アユの友釣りは,アユが自分の縄張りに侵入したほかの個体を攻撃する習性を利用した漁法である。




(縄張りを作る目的は、ふつう食物の確保と交配相手の確保である。
縄張りが大きいほど得られる食物の量は多くなるが,限られた時間内に採れる食物の量には限度があるので,しだいに頭打ちになる。
一方,縄張りを守る労力は縄張りが大きいほど多くなる。
結局,縄張りから得られる利益と,縄張りの維持に必要な労力の差が最大になる縄張りの大きさが最適になるのである。)

C 順位制とつがい関係
 群れの中では,強い個体と弱い個体の優劣関係ができることが多い。

群れの秩序がこうした関係で築かれている場合,これを順位制(じゅんいせい)という。

ニホンザルやオオカミなどで順位制はみられる。

一般に群れの中で順位の高い個体ほど,多くの交配相手を得ることができる。


 順位制の極端な例は,1匹の優位な雄と数十匹の雌から構成されるハレム(ハーレム)と呼ばれる群れである。

こうしたつがい関係を一夫多妻(いっぷたさい)という。

D 共同繁殖
 哺乳類や鳥類をはじめ,親が子に食物を与える生物は多いが,なかには親以外の成体が協力して世話をする場合がある。

このように親以外の個体が子育てに関与する繁殖様式を共同繁殖という。


 エナガという鳥では,つがいの形成や繁殖に失敗した個体が,ほかの個体のひなに食物を与えて繁殖に協力する。

こうした個体はヘルパーと呼ばれ,世話をしている子の血縁者(姉,兄,おば,おじなど)である場合が多い。

しかし,ヒメヤマセミでは血縁のないヘルパーもいる。
(世話をしている子の親が死んだあとに,ヘルパーが縄張りを引き継ぎ,翌年は自らが繁殖できる利点があるからと考えられている)


E 社会性昆虫
 ハチ,アリ,シロアリなどは,高度に組織化された集団をつくって生活している昆虫で社会性昆虫という。

例えば,ハチやアリでは,生殖に専念する女王と,生殖に参加せず,食物の運搬や幼虫の世話をする個体(ワーカー)や,天敵からの巣の防衛に専念する個体(兵隊)など分業がある。

こうした分業をカースト制という。

すでに述べた共同繁殖の場合とは異なり,ワーカーや兵隊は自らの子を残すことができない(!)。

 社会性昆虫は,女王が産んだ個体の集まった血縁者の集団である。

そのため,女王が産んだ幼虫はワーカーにとって妹などの血縁者である。

ワーカーは自分の子を残さないかわりに,血縁者を育てることで,自分の遺伝子を残すことになる。
(血縁度の動画で解説しています。「矢口はっぴー 血縁度」で検索してください。)


捕食
自然界では,捕食者が被食者を食べつくしてしまうことはほとんどなく,両者は長い間共存できる。

捕食者の個体数は,被食者の個体数が増えるとその後を追うように増加し,被食者の個体数が減少すると間もなく捕食者の個体数も減少する。

捕食者は,被食者の個体数に影響を及ぼすだけでなく,形態や行動などの適応をもたらすことがある。

動物個体が,周りの景色と同じような色や模様をもつことをカモフラージュ型の擬態(ぎたい)という。

ある種のチョウやガの翅(はね)は茶色や緑の葉にそっくりな模様をしており,鳥やトカゲなどの捕食者の目をあざむいていると考えられる。

また,鳥などの捕食者は,学習によって,毒針をもつハチや,味の悪いチョウなどを襲わなくなる。

そのため,こうした種にそっくりの形態をして捕食者から逃れることができる。これを標識型の擬態という。

G 相利共生

自然界では種間関係が双方の利益をもたらす場合も少なくない。

この関係を相利共生(そうりきょうせい)という。例を選ぶ問題がよく出る!


マメ科植物と根粒菌の関係は,相利共生の典型的な例である。

根粒菌は,空気中の窒素を固定して得られた窒素化合物を植物に提供する一方で,植物は光合成により生産された炭水化物を根粒菌に提供している。

 シロアリと腸内の微生物も相利共生の関係にある。

シロアリが食べる木材は,セルロースやリグニンなど,多くの動物が消化できない成分からできている。

しかし,シロアリの腸内に生息する微生物が木材の成分を炭水化物に分解し,シロアリに栄養分を提供している。

一方,シロアリは微生物にすみかを提供している。

同じような関係は,ウシやシカなどの草食動物とその腸内に生息している微生物の間でもみられる。

 相利共生には,栄養分を提供する以外の関係もある。

アブラムシ(アリマキ)はアリに栄養分を与え,アリはアブラムシを天敵から守っている

またミツバチやマルハナバチは,植物の花の蜜や花粉から栄養分を得ている一方で,植物はハチが運ぶ花粉により受粉を行っている。

相利共生が圧倒的にテストに出やすいが、以下のような種間関係もチェックしておこう。面白い単元なので、必ず資料集を見ながら学習すること。

・片利共生(へんりきょうせい)・・・共生者の片方が利益を受けるが、他方は利益にも不利益にもならない関係。
例)カクレウオはフジナマコの体内に隠れる。

・寄生・・・片方(寄生者)が利益を受けるが、他方は不利益を受ける関係。(大学では、片利共生に含めることもある)
寄生者の例)ヤドリギ、カイチュウ、サナダムシ、

・片害作用(へんがいさよう)・・・片方が不利益を受けるが、他方は利益にも不利益にもならない関係。
例)セイタカアワダチソウは、根から他の植物の生育を抑制する物質を分泌する。(これを他感作用[アレロパシー]という)

・中立・・・お互いに利益にも不利益にもならない。
例)シマウマとダチョウ