2016年1月19日火曜日

高校生物 第16講 植物の環境応答


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エチレン

予習
植物にも、ホルモンがあると聞いて驚くでしょうか。
植物も多細胞生物です。
したがって、遠く離れた細胞同士がコミュニケーションをとる必要があるのです。
例えば、オーキシンというホルモンは細胞の成長を促進させることで、植物体を光の来る方向に向けます。
花成ホルモンというホルモンは葉で合成され、師管を通り全身に「花を咲かせよ」というメッセージを送ります。いつ花を咲かすか、という問題は大変重要です。自分一人が花を咲かせても、花粉を受け取る相手がいなければ無駄咲きですからね。花を咲かせる時期を誤れば、花粉を運んでくれる昆虫にも会えないかもしれません。
アブシシン酸というホルモンは「気孔を閉じよ」というメッセージを気孔に送ります。周囲が乾燥し、過剰な蒸散を防ぎたいときに便利ですね。
他にもいろいろなホルモンがあります。
なんと最近では、ホルモンを使って周囲の他個体にメッセージを送っていることも明らかになっています。植物が「会話」をしていたのです。


講義
□ テーマ1 : 青色光は気孔の開閉や屈性に関与している!
気孔の開閉についてはしっかり覚える!細胞壁のどちら側が厚いかが問われる!また、アブシシン酸が気孔を閉じることもよく出る!

(1) 気孔の開閉

気孔は蒸散やガス交換に働いている。

強い光を浴びるほど、高温多湿な環境ほど、二酸化炭素が不足するほど、気孔はよく開く。

気孔をつくる細胞である孔辺細胞は気孔側の細胞壁が厚くなっている。

このため、細胞の浸透圧が上昇し、吸水して膨圧が大きくなると、細胞が湾曲して気孔が開く。




アクティブラーニング課題:膨圧と気孔の開閉が関係していることに生物学的意義はあるか。





(膨圧が大きくなるのは細胞が吸水したからであって、周囲に水が大量に存在することがわかる。ならば、気孔をかなり開いてもよく[気孔が閉じるのは水分の損失を防ぐため]、二酸化炭素などをよく取り込むことができる。)


(アブシシン酸、オーキシン、ジャスモン酸、ジベレリン、ストリゴラクトンの受容体は核タンパク質の機能を調節する。が、核内に限定されるかは明らかでない)

(2) 光屈性

イネ科植物の幼葉鞘では先端部で光を受容するが、これは先端部に青色光を受容するフォトトロピンというタンパク質が分布していることが関係している。

高濃度のオーキシンが茎では成長促進、根では成長抑制にはたらくことによって、茎では正の光屈性、根では負の光屈性を示す。

フォトトロピンは、光屈性のほか、気孔の開口にも関わっている。

幼葉鞘=イネ科植物の芽生えにみられる鞘状の構造。

オーキシンは切り出した器官の表皮を伸長させる(そこがジベレリンとちがう。ジベレリンは切り出さなくても伸長させる)

オーキシンは葉や分裂組織でつくられる。

細胞膜にオーキシンの流入タンパク質、流出タンパク質がある。

オーキシンは維管束内の形成層と導管、師管の周辺にある柔細胞を通る。
師管を通るものもあるがその場合は極性移動がみられない。

根では、根冠を取り除くと、根冠が再生されるまで根はランダムな方向に伸長する。

茎では、重力屈性の刺激の受容は内皮細胞層(皮層の内側にある細胞)で行われると考えられている。内皮細胞には、根のコルメラ細胞と同様にアミロプラストが含まれている。

□ テーマ2 : 赤色と遠赤色光は光発芽種子と関係している!
光発芽種子、レタス、フィトクロムと覚えればOK!

(1)陽生植物の種子には温度や水分などが適当な条件であっても、光が当たらないと発芽しないものが多い。

このように、発芽に光が必要な種子を光発芽種子という。

レタス、タバコ、シソ、シロイヌナズナ、ヤドリギなどが例である。

逆に、発芽に光の作用を必要としない種子を暗発芽種子といい、特にキュウリ、カボチャ、ケイトウなどの暗発芽種子は光を浴びると発芽が抑制される。

(2)フィトクロムという色素タンパク質(色素とタンパク質の複合体:分子量125000が2両体を形成しているので分子量250000)が赤色光をあびると、遠赤色光吸収型に構造が変化し、発芽を促進する。

つづいて、遠赤色光をあびると、赤色光吸収型に変化し、赤色光の効果は打ち消されてしまう(フィトクロムは可逆的に構造変化する)。

したがって、最後に照射した光が何かによって、発芽するか否かが決まる。

(一部の植物では、遠赤色光吸収型はゆっくりと赤色光吸収型に変化する)


アクティブラーニング課題:どうして光発芽種子において赤色が発芽促進に有効なのか。





(赤色が届くということは、自身の上に葉がないということである。葉は赤色と青紫の光を吸収する。発芽しても成長できると考えられる。)


(藻類やコケ植物、シダ植物、裸子植物、被子植物でフィトクロムが発見されている。被子植物では、種子発育、節間成長、葉の形成と成長、光屈性の感受性、重力屈性の感受性、アントシアン合成に関わる)


□ テーマ3 : ジベレリンによる発芽促進のしくみは頻出!かならずマスターしよう!
ジベレリンは胚から分泌されることを覚えよ!

①種子が吸水すると、胚からジベレリンが分泌される。

②これが糊粉層の細胞の、アミラーゼ遺伝子を活性化する。

③転写・翻訳により生じたアミラーゼが、胚乳へ分泌される。

④胚乳中のデンプンが分解される。

⑤デンプンの分解により生じた糖が胚にとりこまれ、呼吸基質や新しい細胞の材料として使われる。
そして発芽する。

分裂が停止しているときに低温を経験することでジベレリンが合成される「低温要求種子」もある(少なくない種類の植物の種子が発芽に低温を要求する)。

(ジベレリンはテルペノイド[5炭素化合物を構成単位とする天然化合物]で、植物では120種みつかっている。植物以外にも見つかっている)

(ジベレリンは主に茎頂組織で合成される)

(ジベレリン、アブシシン酸、サイトカイニンなどは、植物のどの細胞でも合成される)

(ジベレリンは維管束系を通って移動すると考えられている)

(ブドウでは、花にジベレリン処理をすると花粉の授精能力が壊されて、胚発生がないまま子房の肥大を誘導することができる[単為結実]→種なしブドウに利用)

 □ テーマ4 : 長日植物と短日植物についてマスターしよう!
植物名は必ず覚えよ!あとはグラフを使う問題で訓練せよ!

(1) アサガオ、イネ、キク、タバコ、ダイズ、オナモミのように、連続した暗期が一定時間(この植物ごとにもつ特有の時間の長さを限界暗期という)よりも長くなると花芽を形成する植物を短日植物という。

「短気(短日植物)で朝(アサガオ)にキック(キク)してくれる女がいーね(イネ)、大好き(ダイズ)」

(2)アブラナ、コムギ、ダイコン、ナズナ、アヤメ、ホウレンソウのように、連続した暗期が一定時間よりも短くなると花芽を形成する植物を長日植物という。

「日焼けした長い(長日植物)危ない(アブラナ)小麦(コムギ)色の大根(ダイコン)足放り(ホウレンソウ)出す」

(3)エンドウ、セイヨウタンポポ、ナス、キュウリ、トマト、トウモロコシ、ソバのように、日長とは関係なく花芽を形成する植物を中性植物という。

(4)花芽の分化には、日長だけではなく温度が影響する場合がある。

補足
秋に種子をまいて次の年の春に開花する秋まきコムギは長日植物だが、長日条件だけでは花芽を形成せず、冬の温度を感知することも必要である。

このように、一定の低温状態を経験することで花芽形成が促進される現象を春化といい、人工的に低温処理して花芽形成を促すことを春化処理という。

(5)花芽形成には、フロリゲン(花成ホルモン)という植物ホルモンがはたらくらしいことがわかっていた。

このホルモンは、葉で合成され、師管を通って移動するらしいこともわかっていた。

ここまで明らかになっていたにもかかわらず、フロリゲンの正体は、つい最近まで謎であった。

しかし、シロイヌナズナの研究から、フロリゲンはFTというタンパク質であり、実在することが分かった。



□ テーマ5 : 植物ホルモンについてマスターしよう!
各ホルモンの働きはぜ~~ったいに覚えよ!


1.ジベレリン

①伸長成長促進
ジベレリンはイネの馬鹿苗病(ばかなえびょう)を起こさせるカビから精製された。

馬鹿苗病とは、植物が異常に大きく成長し、ポキっと折れやすくなる病気である。

②未受精の子房を肥大化させ、果実をつくる。

⇒種無しブドウに利用

③休眠打破

「ジベリリリーン!起きろ!発芽せよ!」


2.エチレン


①果実の成熟促進

②離層をつくる

(エチレン受容体は小胞体にある)


「腐ったミカンがあったら、ほかのミカンが腐る前に捨てる、そんなことをして何が教師ですか!生徒たちはミカンじゃないんです!人間が根っこから腐るなんてことは、そんなことはありえんのです!」という名説教を知っていますか。
もっとシンプルに説教するには、
「ヒトはエチレンを出しません」といえばよろしい。

3.サイトカイニン


①組織培養において、カルスを茎と葉に分化させる

②側芽成長促進

③葉の老化抑制

④細胞分裂促進

はじめ、細胞分裂を促進するなぞの物質が発見された。
この物質を科学者はカイネチンと呼んだ。
カイネチンと同じ働きをする物質は多数発見され、まとめてサイトカイニンと呼んでいる。

根で合成されるが、根を切断した植物の茎や葉でも合成される。

導管を通って輸送されるが、師管も通ると考えられている。

サイトカイニン、ブラシノステロイド受容体は細胞膜に局在する。


4.アブシシン酸


①休眠促進

②気孔を閉じる

「アブない!休眠してよう!」
「危ない!気孔を閉めろアブシシンさん!」


5.ブラシノステロイド

伸長成長に関係するステロイド性の植物ホルモン

ステロイドホルモンでありながら、受容体が細胞膜上にある。

(ブラシノステロイドbrassinosteroidはアブラナ科brassicaceaeで最初に同定された。葉の成長促進、エチレン合成促進、発芽促進、根の成長促進、導管、仮導管成長促進、花粉管伸長促進、葉の脱離抑制、木部分化促進、ストレスに強くさせるなど、多様なはたらきをもつ。オーキシンは表層を伸長させるが、ブラシノステロイドは表層と内部どちらも伸長させる。無傷の植物に投与しても伸長させるはたらきはジベレリンに似ている。ストレスに強くさせる効果があるので、農業に応用されている)


6.ジャスモン酸

葉の老化を促進

昆虫による食害を防止

また、揮発性のジャスモン酸メチルに変化し、気孔から飛散する。

ジャスモン酸メチルはまわりの植物へ危険信号を伝える役割をもつ。

まだ傷害を受けていない個体に対しても抵抗性獲得を誘導する。

(ジャスモン酸は、葯の形成や花粉の発芽に必須。ジャガイモの塊茎形成、つるの巻き付きに関与する)

(「おーい!おれは今害虫に葉を食われてるぞ!お前らも気をつけろ!」というシグナルになる。周りの植物は、「ラジャー(スモン酸)!」と返事をする?)