2016年1月23日土曜日

高校生物基礎発展 第9講 免疫

免疫のリアル授業はこちら □ テーマ1 : 自然免疫

高校生物基礎のなかでも、とくに免疫の学習で悩んでいる高校生が多いので、かなり詳しく解説した。教科書理解の基盤としてほしい。




白血球は造血幹細胞由来の細胞である。

一般的に白血球は免疫に働く細胞全体を指す。
ふつう、マクロファージも好中球もリンパ球(T細胞、B細胞)も白血球に含める。

造血幹細胞からは、白血球以外に、赤血球や血小板なども生じる。)






自然免疫にかかわる細胞は以下の通り。教科書より詳しく記す。




①マクロファージ
貪食および殺菌機構の活性化を行う。

(マクロファージも抗原提示を行うことが知られているが、高校では伏せられている。
抗原提示は主に樹状細胞が行う。)

マクロファージはほとんどすべての組織に駐留している。

マクロファージは単球の成熟型である。

単球はすべての白血球と同じく造血幹細胞由来の細胞で、血液中を循環し組織へと遊走し、そこでマクロファージに分化していく。

マクロファージに分化した単球は、多くの細菌に対応するレセプター(受容体)をもつようになる。

その受容体のひとつがToll様レセプターである。

Toll様レセプターには、細菌の細胞壁、タンパク質、べん毛を認識するものなどがある。



Toll様レセプターなどの受容体を通じたマクロファージ細胞内へのシグナルは、
インターロイキンのような向炎症性サイトカインの分泌を誘導する。

マクロファージ細胞内にはファゴソーム(貪食により取り込んだ異物を包む小胞)、リソソーム(種々の抗菌のための酵素を含む)、ファゴリソソーム(リソソームとファゴソームが合体したもの)が発達している。









②樹状細胞

抗原の取り込みを行う。

抗原提示を行う(強力なT細胞応答を誘導する)。

抗原単独の状態は、その抗原に一度も出会ったことのないT細胞を活性化しない。


樹状細胞は、不活性なT細胞に最初に抗原を提示して、T細胞を活性化する能力を持つ




③好中球


貪食を行う。

殺菌機構の活性化を行う。

③好酸球

抗体に覆われた寄生虫の殺傷を行う。

まだよく働きは分かっていない。

④好塩基球


働き未知。



白血球の中でも、好中球と好酸球と好塩基球は、顆粒球と呼ばれる。






⑤マスト細胞
ヒスタミンなどの活性物質を含んだ顆粒の放出を行う。


⑥NK(ナチュラルキラー細胞)


腫瘍細胞やウイルス感染細胞などを殺傷するリンパ球。

大型の顆粒を有する。

ウイルス感染細胞や腫瘍細胞を殺す。

さまざまな種類のレセプターを有するが、これらに多様性はなく、遺伝子の再編成も起きていない。

NK細胞は自然免疫において重要な役割を果たすと考えられている。

リンパ球様細胞などということがある。



□ テーマ2 : 適応免疫

はじめにMHCについてまとめておく。





MHC(主要組織適合抗原複合体)  
MHCタンパク質(MHC分子)をコードする遺伝子群。


MHCタンパク質(主要組織適合抗原、MHC抗原、MHC分子、MHC)  
単にMHCと呼ばれることもある。細胞内のペプチドを他の細胞に提示するのに使うタンパク質。ホットドッグのような構造をしており、様々なペプチドをのせることができる。


HLA抗原  
ヒトの主要組織適合抗原。白血球だけでなく赤血球を除く全身の細胞表面に存在する。





自然免疫にかかわる細胞は以下の通り。

リンパ球と呼ばれる白血球のグループがかかわる。


リンパ球にはT細胞、B細胞、NK細胞がある。
 このうち、主に適応免疫に働くのはT細胞とB細胞である。
BおよびT細胞はともに骨髄に由来する。


T細胞は、T細胞の名前の由来である胸腺へ遊走してそこで成熟する。

(B細胞のBは本来はファブリキウス嚢を表したものである。
これはリンパ球がその中で成熟する、幼鶏のリンパ組織の名前なのだが、幸運なことに骨髄由来ということを同様に示してくれる。)















(リンパ球のクローン選択について簡単に述べる。
免疫寛容の仕組みを確認しておこう。
自分に対して反応するリンパ球は除かれるのである。

①1個の前駆細胞が、異なる特異性をもつ多種のリンパ球を生み出す。

②自己反応性のある未熟リンパ球は除去される(それで、免疫寛容が維持される)。

③成熟したリンパ球上の受容体が非自己成分と相互作用すると、そのリンパ球は活性化し、分裂をはじめる。)







(記憶細胞について確認しておこう。
免疫応答の経過中、抗原刺激で活性化したB細胞およびT細胞の一部は記憶細胞へと分化する。

記憶細胞は長期に持続する免疫を担う細胞で、再感染やワクチン接種時に働く。)




①B細胞

教科書によって、
B細胞はひ臓で成熟すると書いてあったり、
B細胞の成熟する場所を曖昧にしていたりする。
(参考書にはB細胞は骨髄で成熟と書いてあるものもある)。
その理由は以下の通り。

B細胞は骨髄で生じる。

しかし、生じるのは未熟なB細胞である。

B細胞は、遺伝子の再編成などを行いながら、成熟していく。

そして、さまざまな機能を獲得しながら(=分化を進めながら=成熟しながら)やがてひ臓に達する。

つまり、B細胞は成熟した!とどこで断定すればよいのか明確な定義はないのである。

そのような理由で、骨髄でB細胞が成熟したとみなす参考書と、ひ臓でB細胞が成熟したとみなす教科書がでてくる。

ひ臓目指して未熟B細胞は旅をするが、一部のB細胞しかひ臓には入れない。

ひ臓に入れなかったB細胞は短命であり、3日程度で死んでしまう。

ひ臓にたどり着いた未熟B細胞の中でも、さらに一部のものだけがあるシグナルを受け取り、長期生存できるようになる。

そのあと、様々な細胞との相互作用を経て、B細胞は抗体産生細胞や記憶細胞に分化していく。








B細胞の持つB細胞受容体(=B細胞レセプター=BCR)に抗原が結合すると、リンパ球は増殖し抗体産生細胞(形質細胞)へと分化する。

この細胞は抗体を産生する。

抗体はB細胞のもつ受容体とほぼ同じ構造であり、分泌型受容体とも呼ばれる。

ヘルパーT細胞はB細胞を活性化して抗体産生細胞への分化を促す。


補足
B細胞の分化の詳しい仕組みは以下の通り。

B細胞はB細胞受容体で抗原と結合する。

B細胞は抗原を細胞内に取り込み分解する。

B細胞は抗原の一部をMHCに結合させ、細胞表面に提示する。
(高校ではB細胞の抗原提示は扱われていない)

B細胞はT細胞が認識できる形でその細胞表面に抗原を提示する。


ペプチド(分解された抗原)・MHC複合体を認識したヘルパーT細胞は、B細胞に活性化シグナルを伝達する。

その結果、B細胞は抗体産生細胞に分化する。

ヘルパーT細胞は、B細胞と出会う前に、活性化している必要がある。

ヘルパーT細胞は、適切なペプチドを提示した樹状細胞との相互作用により活性化する。







②T細胞

T細胞はT細胞受容体(=T細胞レセプター=TCR)をもつ。



T細胞は胸腺で成熟する。

その判断の根拠として、TCRの遺伝子の再編成は、胸腺で起こる過程だけに限られることがあげられる。

(対してB細胞では、様々な場所で、様々な段階で遺伝子の再編成が起こる。
B細胞の成熟の時期が断定できないのはそのような理由もある。)






T細胞の機能には大きく3つある。

細胞損害、活性化、調節である。



細胞損傷性のT細胞は、キラーT細胞(細胞損傷性T細胞)とよばれる。


キラーT細胞は、ウイルスやそのほかの細胞内病原体に感染した細胞を殺す。


ヘルパーT細胞は、抗原刺激を受けたB細胞を活性化して抗体産生へと向かわせるのに必須な補助的シグナルを与える。



ヘルパーT細胞の一部は、マクロファージを活性化してより効率的な細胞損害と貪食能力を与えることができる。

(制御性T細胞も存在する。旧課程の医系では出題があった。
制御性T細胞は、他のリンパ球の活性を抑制し、免疫応答の調節を補助する。)




キラーT細胞はあまりにその機能が破壊的なため、活性化のために二重の制御を受ける。

1つは樹状細胞からのシグナル。

1つはヘルパーT細胞からのシグナルである。


アクティブラーニング課題:ヘルパーT細胞の「ヘルパー」とは、いったい何を指しているのだろうか。考えてみよ。



(もともとヘルパーT細胞はB細胞の抗体産生細胞への分化を「助ける」という意味で名付けられた。


その後、ヘルパーT細胞にはさまざまな種類があることが分かった。

さらに、マクロファージを活性化するというヘルパーT細胞の役割が発見されたとき、


「ヘルパー」という名前はこの機能にまで拡張された。







ヘルパーT細胞は、以下の機能をもつものが見つかっている。

①マクロファージを活性化し、細菌の殺菌を促す。

②B細胞を活性化する。

③上皮細胞や繊維芽細胞に作用して、好中球の動員を促すケモカインを生産させる。

補足
実は、高校でヘルパーT細胞とよんでいるのは、CD4T細胞というT細胞のグループである。

CD4T細胞はいろいろな種類が発見されている。

上の①②③はそれぞれ別種のCD4T細胞が関わる。

CD4T細胞のなかには働きが十分にわかっていないものも多い。

CD4T細胞の中には制御性T細胞もある。

制御性T細胞は不均一な細胞集団で、T細胞の活性を制御し、炎症の過程での自己免疫疾患を防いでいる。





以上、詳しく記したが、免疫の分子機構は研究中であり、完全には解明されていない。


問題を解く際は、出題者の意図と、教科書の記述に従うこと。